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停電…!?
なんで急に…なにかあったのだろうか。
真っ暗になった部屋の中を見回す。光になりそうなものはここにはない。
無意識のうちにそばにあったオルゴールを握った。
その時だった。
暗闇の中でいきなり誰かに手を掴まれた。
『な…っ』
「走るぞ!」
聞こえた声に息を呑む。
間違えるはずもない。降谷さんの声だ。
手を引かれるままに駆け出した。
いつの間にか錠が開いていたドアを飛び出す。
すぐに後ろから組織の奴らのものと思われる足音が追いかけてきて、こけそうになるのを堪えながら必死で足を動かした。
薄暗い廊下を走り抜けて角を曲がる。
彼はすぐ横の部屋に駆け込んで私の口を塞いだ。
追っ手が部屋の前を通り過ぎていく。
その足音が遠のいてから、ようやく降谷さんは手を離した。
「…大丈夫か?」
『は、い…』
いつかのように月明かりが私たちを照らす。
随分久しぶりに彼の瞳を見た気がした。
降谷さんは私の頬に手を添えて、覗き込んでくる。
そしてふわりと顔を綻ばせ、私を抱きしめた。
「遅くなってごめん。無事でよかった」
『……っ』
少し苦しいくらいの腕に息が詰まる。
たったこれだけのことでこんなにも安心させられる。
ぎゅっと唇を噛んだ私に、降谷さんは軽く笑った。
「まだ泣くなよ」
『な、泣いてないです…!』
「…うん、よく頑張ったな」
大きな手が私の頭を撫でる。
淡い月の光がブルーの瞳に浮かぶ。
彼は周りに視線を巡らせて言った。
「もう少ししたら外に出よう。あとちょっと我慢してくれ」
『はい』
そこでふと気づく。
組織の幹部でもある彼が私を連れ出すだなんて、組織側にバレたらかなりまずいのではないだろうか。
…え、絶対やばいよね?万が一ベルモットに見つかりでもしたら裏切り行為に…
その事実にぶち当たってサッと青ざめた。
私はなんてことを降谷さんに…!
「おいA?どうした?」
『ふ、降谷さん、あの、』
「…考えてることは想像つくけど、お前が心配するようなことじゃないから」
ため息混じりに頬を潰された。
雑に髪を掻き回される。
私を落ち着かせるように笑って見せた彼は、窓の外に目を向ける。
その横顔をじっと見つめた。
『…降谷さん』
「ん?」
これは、次に会えた時に言おうと思っていた言葉だ。
『お願いがあります』
私はそう言って背筋を伸ばし、少しだけ微笑んで紡いだ。
『もう一度だけ、私のことを振ってくれませんか』
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羽(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時