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Aside


私は両親のことをなにひとつ覚えていない。

私の人生の記憶は、両親が死んだ夜の翌朝、病院で目が覚めたところから始まる。

あの日、私は平穏な日常を、幸せだったはずの日々を、全て忘れ去ったのだ。


記憶喪失だ、と言われた。

なにかのショックで記憶が飛んでしまったらしい。理屈は理解出来てもよくわからなかった。

知らない父と母の訃報を伝えられた。

警察の人になにか覚えてないかと聞かれてもなにも答えられなかった。

自分がどこの誰なのかよくわからないままに始まる叔母様の家での辛い生活。

助けを求められる人はいなかった。縋る思い出もなかった。


けれど、忘れてしまってよかったのかもしれないと思うことはあった。

知っていればきっともっと辛かっただろう。

両親を失った寂しさはなかった。覚えてないんだから失ったわけでもない。

わずかな遺品の中に紛れた家族写真は、知らない2人の間で笑う自分が気味が悪くて、仕舞ったまま見なくなってしまった。

失ったものはないけれど、持っているものもなにもない。新しく得たものすらない。


どうせ世の中はこんなもの。

諦めの目を世界に向けるようになるまで、そう時間はかからなかった。






目が覚めた時、縛られた腕と痛む後頭部に「またこれかよ!」と神様にビンタしたい気分になった。

攫われる展開は数ヶ月前にやっただろう。あの時ですら死にそうな思いをしたというのにまたこの仕打ちか。


いかにも監 禁部屋です、というような狭くて暗い部屋。

窓は通れそうにない小さいものがあるだけで、隅にはベッドとトイレ。刑務所かよ。

部屋の中には誰もいないけれど、監視カメラはこれ見よがしに設置されている。


今度は誰だ。あの時と同じ身代金目当ての誘拐だろうか。

発信機はない。気づかれて壊されたらしい。

それに今回はマンションの部屋の中まで入ってこられたのだ。あのセキュリティは万全な高層マンションの、だ。

発信機が壊れれば降谷さんに連絡が行く。今頃探してくれているかもしれない。

しかし今回の相手は、前のようにはいかないだろう。


そう思った時だった。

鉄の扉が耳障りな音を立てて開いた。


「お目覚めみたいね」

『──!』


艶やかな声と、美しい金髪。異国を思わせる瞳の色。

彼女はカツンとヒールを鳴らしながら部屋の中へ入ってくる。

思わず目を見開いた。この人は…


黒の組織の幹部、ベルモットだ。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時

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