75 ページ28
ツリーを見上げる降谷さんの横顔を盗み見る。
淡い光に照らされた金髪はいつにも増して綺麗に映えた。
ここのクリスマスツリーを一緒に見たカップルは永遠に結ばれるだのなんだの、明らかに商業目的なバカげた噂が頭をよぎる。
「付き合ってるの?」と叔母様は聞いた。「はい」と答えることは出来なかった。
繋いだ手をぎゅっと握る。
このまま2人でどこかへ行けたら。なんて。
柄にもない考えが浮かんで消えた。そんなの叶えられるわけがない。
「…A?どうかしたか?」
見つめたままで固まっていた私を、彼が不思議そうに振り返る。
目の端を白いものがチラついて雪が降ってきたことに気がついた。
雪と光が瞬いて、まるで世界が輝いているように見えた。
その中にいる彼を見ていれば、言葉は思っていたよりもすんなりと口にできた。
『──あなたの彼女になったらダメですか?』
「…え?」
いきなりのそれに降谷さんは目を丸くする。
私はそんな彼の手を両手で握ってまくし立てた。
『わかってるんです、まだ早いって、降谷さんが考えてることはわかります。でもお願いです、付き合うなら今……っ』
けれど。彼の瞳の中に戸惑いの色が滲んだのが見えた瞬間、言葉は途中で切れた。
ひゅっ、と喉が鳴って、声が出なくなる。
「A…?」
そりゃそうだ。いきなりこんな、困るに決まってる。
心配そうに私を覗き込んだ彼から目を逸らした。
『…ごめん、なさい』
「…どうした?なにかあったか?」
『いえ、いいんです。なんでもありません』
そう言って曖昧に笑う。
すると降谷さんはぎゅっと顔を歪めた。
「おい、なにかあったなら…」
『大丈夫ですから、忘れて下さい』
「嘘つくなよ、お前なんか隠してるだろ!」
『だからなにもないって…!』
「A!」
『…っ!』
掴まれた手を思わず振り払った。
遅れてそのことに気がついて、ハッと彼を見上げる。
見開かれた瞳と視線が交わった瞬間、弾かれたようにその場から駆け出した。
私を呼ぶ降谷さんの声は聞こえていたけど、それでも人混みの中をブーツで走り抜けた。
あぁ、ダメだ。言えない。言えっこない。どんな顔して言えばいいの。
あなたじゃない人と結婚しないといけないかもしれないなんて。
今日言わないといけなかったのに、なんて後悔の念が浮かんでも足は止まらない。
冷たい雪が頬にぶつかる。
木々に絡まるイルミネーションはまるで嫌味のように瞬いた。
1886人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羽(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時