顔が良ければ全て良しだって未だに思ってるだろ！！【降谷零/安室透】

02 ページ23

どうやって自宅まで行き着いたかはわからないけど、玄関で靴を蹴り飛ばして洗面所の前でへたりこんだ。

胃がぐるぐるする。気持ち悪い。

何度頭を振っても脳裏に焼き付いた光景は消えない。吐き気がしたけどなんとか堪えきった。


なんで、なんで私はこんなことになってるの。

仕事でしょ、ハニートラップでしょ、わかってる。
零さんはあんな子よりずっと私のことが好きだって、ちゃんとわかってる、はずなのに。

なんで逃げた？なんでここまでショックを受けてる？なんでこんなドロドロした感情が芽生えてる？

今まで気にしてなかったはずなのに、私たちはずっとこんな感じで来たはずなのに。

嘘でしょう？だって、私は、ちゃんと理解して……

耳元のアクアマリンのドロップイヤリングに触れる。

…なんで…よりにもよって青い石の指輪なんか…っ


その時、廊下からバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえた。

え、うそ、まさかもう帰ってきたの？

そう思って時計を見たら、いつの間にやらあの場所にいた時から随分時間が経っている。

なるほど、私はえらく時間をかけて帰ってきたらしい。

その間に彼女と別れて車で帰ってきたのだろう。


落ち着け。息を吸え。取り繕え。

絶対にバレちゃダメだ。こんなことを思ってしまったなんて、絶対にあの人には知られちゃダメだ。

深く息を吸って立ち上がる。

バンッと乱暴にドアが開けられる。


｢A！！｣


肩を上下させて私の名前を呼んだ彼に、ニッコリと笑いかけた。


『おかえりなさい、零さん。今日は帰ってこないっておっしゃってませんでしたか？』

いつもと変わらない様子の私に面食らったのか、彼が一瞬固まる。

靴も脱がないままで玄関で立ち尽くした。


｢え…？いや、だってお前…｣

『そんなに急いでどうかしたんですか？』


あくまでいつも通り。なにもなかったことにするんだ。そんなの慣れてるでしょ。

戸惑いを隠しきれていない彼の瞳が揺れる。

そしてさっき私が脱ぎ捨てた靴を捉え、彼は奥歯を噛み締めた。

…あ、やば。いつもちゃんと揃えてたのがあだになったか。

だとしても今更引き返すなんてことはできない。口角をぎゅっと上げ直した。

03→←after：あなたにふさわしい私

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す