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伊野尾先生はしばらく黙ったまま俺に抱きしめられていたけど、
「………そんなの言いたくないです。でも、こんなに俺、今、中島先生の近くにいるから。……つまらない話、しますね。」
そう言ってから、
「中学の時の家庭教師に、散々出来がいいだの可愛いだの言われてその気になって、卒業したら付き合おうって言われて。必死で高校に受かったら実は彼女がいて結婚しますって。バカな子供でした。思い出したくもない位に、素直にその人に心を開いていた。だからもう嫌なんです。好きな人程、離れてたい。傷つきたくない。」
ぽつぽつと教えてくれた。
辛かったんだろうな、とても。
「中学生の伊野尾先生か。素直に心を開いてもらってその男は嬉しかったんでしょうね。でも俺の方が勝ちました。」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めると、
「勝った？何に？」
それこそ素直に聞かれて、
「好きだから意識しすぎてトゲトゲしちゃう伊野尾先生は俺しか見てないから。」
答えると、
「中島先生。」
ぎゅっと抱きしめ返されて、
「…………どんな俺でも、いいの？想いが通じ合ったら、どこかにいっちゃわない……？」
泣きそうに小さな声で伊野尾先生が言ってきた。
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作者名：すみれ | 作成日時：2023年6月29日 2時
