寄せては、返して。(yt×in) (ページ23)

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お酒が進むにつれ、言葉数が少しずつ増えて笑顔も増えていく伊野尾先生に、
「先生の初恋はいつですか？」
楽しくなって本当に高校生みたいな質問を思わずしてしまう俺に、
「高校生どころか中学生みたいですね。…初恋なんて不明確なものだ。あれを初恋だなんて思いたくはない。」
白ワインをひと口呑んで、
「だから今、やり直してるんだ、初恋を。いや、初恋じゃなくてもいい、なんでもいい、ちゃんと幸せだって思える恋を。」
伊野尾先生が考え込んだ。
そして決心したように、酔ってピンクに染めた頬と少しうるんだ瞳で俺を見て、
「中島先生、大人の時間を過ごしてくれるんですよね？だったら俺に下さい。少しの間、俺と恋してください、大人の。」
と言った。

「嫌です。」

すぐに断る。
伊野尾先生の瞳が凍りついた。

俺はグラスを持つ華奢な伊野尾先生の指に手を伸ばして撫でて、
「俺はあなたが好きだ。恋に落ちてる。だからいい加減な気持ちでは手を出さない。振られてもいい、叶わなくてもいい、けど甘い刹那の誘いになんて絶対に乗らない。覚悟して？」
睨むように挑むように言ってから、
「トゲトゲして、拗ねるあなたが好きだよ。本気なんだ。」
にこっと笑う。
そんな俺に、伊野尾先生が俯いて泣いた。

その涙を俺が拭いたら店を出よう。
そして胸の中で聞いてあげるから。
悲しい恋の話を。
全部、俺が受け止めるから。