寄せては、返して。(yt×in) (ページ11)

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学校の近くにある俺のおすすめの昔ながらの喫茶店は、伊野尾先生に概ね好評だった。

落ち着いたクラシックな店内に素敵ですねとボソっと呟いて、紅茶は香りがよくてとても美味しいですと、少しずつ大事そうに飲んでくれる。
そして、
「中島先生はもっと若者が行くカフェとかが好きかなって思ってたんですが、そうじゃなかった。」
カチャッと華奢な紅茶のカップをソーサーに戻してほんの少し俺を見上げて、
「………俺もたまにここに来ていいですか？」
微笑んでくれたから。

じゃあまた一緒に来ましょう。

言えないまま店を出る。
雨はまだぱらぱらと降っていた。
なんで言えなかったんだろう。

俺の隣で傘を広げる伊野尾先生に、
「すみません、俺、ちょっと考えたい事があるんで店に戻ります。すぐに済ませて学校に帰ってまた仕事しますから。」
嫌味を言われないようにやけに言い訳しながら言うけど、頷かない伊野尾先生に、
「いや、ほんと、コーヒー1杯分の時間、考えたい事があって。」
焦りながら言った。