月の下で待ってて (tk×ar) (ページ11)

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気が付けば立ち上がって、俺の頬を拭いていた有岡の手首をぐっと掴んでいた。
「消さなくていい。汚くなんかないから。」
有岡を見つめて言えば、また泣きそうになる。

抱きしめられたらいいのに。

だけどできない教師の自分がいて、でもどうしてもそうしたくて、やっぱりできなくて。

「………本当だから。」

少し強く手首を掴む指に力を入れた。
それからゆっくりと離す。
有岡の腕がぱたっと落ちた。
「もう、帰りなさい。」
前髪をかきあげてから言うと、有岡が首を横にふるふると何度か振って、
「先生の側に、いたいです。」
苦しそうに目を閉じた。
可愛くて、どうしようもなくて。

少しかがんで有岡の頬にキスをした。
柔らかい、その頬に。

有岡が目を開けてからみるみる頬を赤くして、
「………帰りますっ！！」
足をもつれさせながら、進路指導室から出て行く。

ひとり残った俺は、抱きしめてしまうのと、キスをするのと、どっちがいけない事だったんだろうかとそんな事をぼんやりと考えていた。