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春の夜の空気は濃く柔らかい。
「昼間の桜もいいけど、夜の桜も好きだな。」
バイトが終わってから大貴と手を繋いで歩く。
キスした事があると大貴から昼間に聞いた公園を。
「ごめんな、暗いからってずっと手、繋いでて。」
癖だからと一瞬ではなく、繋いだままになってるのに謝ってくる大貴に、
「好きなんだ、大貴のこの癖。」
ぎゅっと繋ぎ直した。
「………話って、何?」
大貴もぎゅっと繋いでくるから、
「俺をもっと大貴の特別にして?」
そう言った。
大貴が立ち止まるから、手を繋いでる俺も自然に立ち止まる。
見つめ合った。
「大貴が好きな人と上手くいくように、俺を使って欲しい。都合いい事に俺、男だろ?だから俺をさ、片想いの相手だと思ってアプローチとか告白とかの練習台にしてよ。」
俺にできる事、その全部を大貴にしてやりたい。
ぼんやり俺を見上げる大貴の頬を、繋いだ手と反対の手の指でふにっとつまんで、
「まずはデートかな?いっぱい、そいつに気持ちぶつけられるように頑張ろうな。」
笑う。
大貴が小さく頷く。
めちゃくちゃ泣くの、我慢しながら。
………ばかだな、無理して。
俺が繋いだ手も頬をつまむ手も離して、大貴を抱きしめた。
嗚咽を抑えて泣く大貴が愛おしい。
大丈夫、俺がお前を幸せにしてやる。
その週の金曜の夜、大貴とのデートが始まった。
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作者名:すみれ | 作成日時:2024年2月17日 2時