N (1) ページ16
俺に手首を掴まれた慧が、
「離して。」
そう言うけど、
「離さない。何?俺が慧の大好きを邪魔したって。どういう事?」
教えて欲しいと問い詰めると、
「………付き合って1年と2ヶ月、ずっとゆーとからの気持ちを受け取ってきたよ。嬉しかった。こんな俺を好きでいてくれて。でも。」
慧が悲しそうな顔になって、
「俺、下手みたい。感情を出すの。ゆーとみたいにいつも好きだよって言えないんだ。大好きだよってたくさん言いたいのに、照れて言えなくて。そうしてる間にまたゆーとは好きをたくさんくれる。………俺じゃだめな気がする。ゆーとに釣り合わない。ごめん、邪魔するなんて言って。悔しいんだ、素直じゃない自分が。」
涙を浮かべる。
「こんなにゆーとを好きなのにね。」
俺に掴まれていない方の手で俺の頬を撫でて、
「ゆーとみたいに、なれたらいいのにな。」
そう言った。
力が抜ける俺の手から離れて、
「バイバイ。」
手を振って歩いて行く慧をただ見送る。
何だろう、このすれ違いは。
そんなの好きだなんていつも言わなくていいよと思って、それは嘘だとその背中を追いかけられない。
だって俺、慧にもっと好きだって言って欲しい。
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作者名:すみれ | 作成日時:2023年12月28日 1時