キスと笑顔 (tk×ar) (ページ22)

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そこまで思い出して、集中していたからか聞こえなくなっていた居酒屋のざわめきがまただんだんと聞こえてきた。
週末の居酒屋は相変わらず混んでいる。
高校生じゃない、白シャツにネクタイをした有岡はまだじっと俺を見ていた。

俺がゆっくりと口を開いて、
「……あんなに酷い事したのに、どうして声かけてくれたんだ？」
後悔と情けなさに押し潰されそうになりながらも、なのにどうしても知りたい気持ちが勝ってそう聞いた。
すると有岡がにこっと、
「酷い事って何ですか？俺、そんな事されてないし。」
可愛く笑って、
「今だったらちょっぴり分かります。先輩からのキスは気持ちがないものじゃなかったって。先輩の唇も体もとても熱かった。………あの瞬間、俺、好きでいてもらえたんじゃないかって。」
柔らかい声で言った。
そして、
「だから確かめたくてつい声をかけたんです。あの後お互い避け合って、あんなに好きだった先輩への想いを俺は断ち切った。だけどもし、今、先輩があの時の事を少しでも良い風に思い出してくれたら俺の長い片想いも終われるかもしれないって。」
頼りなく微笑んでから、
「けど、酷い事、だったんですね。先輩にとって俺にした事は。」
ぽつんと呟いて小さい子みたいにしょげる。
そんな有岡は可哀想だけどやっぱり可愛い。

……そうだ、俺は有岡を傷つけないために近寄らなかったんじゃない、その可愛いさにまた触れるのが怖かっただけだ。

伝えなきゃ。
酷いっていうのは俺のやり方だったんだって。
今より幼いお前に悪い男を演じて、付き合ってもないのに可愛さのあまり強引にキスした事だって。