＃６０８ ページ22
「……お邪魔します」
「ん」
言われるがまま業についていき、気付けばやってきたのは業の家だった。
そこそこのマンションを借りて住んでいるらしいこの家は、小綺麗で生活感があまり感じられない。
「アンタ、ちゃんと家帰ってんの？」
「まあ一応」
「うっそくさ」
思いっきり顔を顰めてやると、見るなとでも言うように顔面に掌を押し付けられた。
「ほら、さっさと女の影探しでもしなよ。
やるだけ無駄だけど」
それより、と溜息混じりに零された言葉に、いやいや本当に無駄でしょうと返す。
女の影どころか生活感すら危ういではないか。
取り敢えずえっちぃ本でも探そうかとベッドの下を覗く。
次にマットレスの下だとか、逆に本棚だとか。
「……ちょっと、それ探すもん違くね？」
「いいのよ隠さなくたって……。
だって……成人男性ですものね！！」
「マジでやめろホントにやめろ」
今度は目を覆われて視界が真っ暗に。
なるほど、本棚が怪しいと。
わかったから、と探すのをやめるふりをしてトントンと腕を叩く。
すると漸く開けた視界の端に、鍵付きの引き出しがあるのを見つけた。
こんなもの、実家の方の業の部屋にも、学生時のマンションにもなかったはずだ。
不思議に思って見つめているのがわかったのだろう。
業はどこからか鍵を取り出し、それを私に渡してきた。
「なにこれ」
「あれの鍵」
「……え、鍵かけて更にそれを持ち歩く程やばい本でも入ってんの！？」
「その話から離れろアホ」
割と久々に業から罵られた気がした。
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作者名：聖泉りか | 作成日時：2018年4月7日 16時
