＃４４７ ページ39
no side
致命傷だった。
医学を極めた死神でも治せないような。
飛び出さなければ巻き添えにならなかったのに……。
そう零した死神に支えられながら、あぐりはドジをこいたと苦笑した。
「だけど…声かけた位じゃあなたは止まってくれない気がして」
……その通りだった。
あのまま外界へ出て行けば歪んだ感情が触手を歪め、歪んだ触手が感情を歪め。
どす黒い姿の破壊生物として安定してしまうところだった。
呼び戻してくれたのは……彼女の感触だったのだから。
あと0.1秒早く気付けば。
精密な触手を医療に使う訓練をしていれば。
死神の中にぐるぐると後悔が駆け巡る。
世界を憎んで育った殺し屋は、得た物全てを相手を壊す為に使ってきた。
科学知識も、戦闘術も、
そして、触手も。
ようやく気付いた。
身に付けた力の使い道はもっと他にあった事を。
気付く時間はたっぷりあったはずなのだ。
殺す力を壊す力を。
どうして誰かも為に使わなかったのか。
そうして自分を責め続けた先の結論は。
「私が殺したも同然だ」
そんな答えだった。
だが、その答えをクスリと笑いながらあっさりと否定するあぐり。
自分がそうしたかっただけだと。
「それに…ね、あなたになら…。
私はたとえ殺されても良いと思う。
そのぐらいあなたを大切に思えるから」
そう言ったあぐりの焦点は、徐々に合わなくなっていく。
「きっとあなたも…そんな相手に巡り合えますよ。」
「君になら殺されても悔いは無い。
だが、君以外にそんな相手がいるとは思えない」
ゆっくりと目を閉じたあぐり。
暫く２人の間に沈黙が続く。
だが、あぐりに残された時間は本当に僅かしかなかった。
「…もし…残された１年間、あなたの時間をくれるなら。
あの子達を教えてあげて。
あなたと同じように…あの子達も闇の中をさ迷っている。
真っ直ぐに見てあげれば……きっと答えは見つかるから」
そっと目をあけたあぐり。
それが彼女の願いなら……。
「君がそう言うのなら」
死神はそう答えた。
その答えにあぐりはゆっくりと笑った。
「……なんて…素敵な触手…！！
…この手なら…きっとあなたは…素敵な教師に」
最後に人差し指で死神の頬に触れたあぐり。
その手が重力に従って落ちていき……。
死神の腕の中、息を引き取った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 139人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：聖泉りか | 作成日時：2016年3月26日 1時
