＃４３１ ページ23
「それから、カエデの触手の事とか聞いた。
自分の命と引き換えにでも殺せんせーを殺しに行くだろうって事も」
一区切りついたところで顔を上げる。
皆難しそうな顔をしていて、カエデは目を伏せた。
「触手はちょっと黙って拝借してきたらしい。
私はその話を信じたから、カエデを止める為に移植した」
その時、涙を懸命に堪えながら何度も謝る姿を思い出す。
あれから、また連絡は取れなくなった。
カエデと同じようにこの場所を選んだのは、触手の扱い方に慣れる為。
人目につかない場所を選んだ結果という事だ。
最後に口止めされ、皆が劇をしている間を狙って教室に入り眠らされた。
「ああ、そうだ……。
殺せんせーの過去の事も……ちょっとだけ…………」
「！！」
何だか申し訳なくなって俯く。
今思えば、カエデの触手の話を信じる為には必要だったんだとは思う。
「名前はほぼ伏せられてて詳しい事は全然わかんないけどさ。
殺せんせーがそんな姿になった経緯とか」
私の言葉を聞いて、殺せんせーはそうですかと小さく零した。
それからふーっと息を吐いて、意を決したように口を開いた。
「できれば…過去の話は最後までしたくなかった。
けれど…しなければいけませんね。
君達の信頼を君達との絆を。
失いたくないですから」
ざぁっと吹いた風がすすきを大きく揺らす。
まるで、私達の心の様に揺れるすすき。
「夏休みの南の島で、烏間先生がイリーナ先生をこう評しました。
「優れた殺し屋ほど万に通じる」。
的を得た言葉だと思います」
何故、いきなりその話を持ち出したのか。
私だけがそれを理解して目を閉じた。
「先生はね、教師をするのはこのＥ組が初めてです。
にも関わらず、ほぼ全教科を滞りなく皆さんに教える事ができた。
それは何故だと思いますか？」
その問いかけに、皆理解した。
ゆっくりと目を開けると、その空気を痛いほどに感じる。
私を支えている業の身体が僅かに反応した。
「…まさか」
「そう。
２年前まで先生は…「死神」と呼ばれた殺し屋でした」
その言葉に、全員が目を見開く。
理解がついていっていないような、そんな表情。
私も、初めて聞いた時はそうだった。
「それからもう１つ。
放っておいても来年３月に先生は死にます。
１人で死ぬか地球ごと死ぬか。
暗殺によって変わる未来はそれだけです」
そうして、殺せんせーは語り始める。
ずっと秘めていた、その人間の記憶を。
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作者名：聖泉りか | 作成日時：2016年3月26日 1時
