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何から話そうか数秒迷ってから、私は遠慮がちに右腕を捲る。
そして、その腕を渚君に見せた。
一部分、手首の少し上辺りを擦ってファンデーションで隠していた物を見せる。
そこには先日出来た手の形をした痣。
「っっ!?」
酷く驚いた顔を気付かないふりして話を続ける。
「これね、私のマネージャーに付けられたの。
力強く握られてね。
あの人はいつも自分の思い通りに私が動かないと、直ぐに暴力をふるう。
他にも服で隠れる所に沢山ある」
「それ、雪乃ちゃんのお母さん達は……」
「知らない。
あの人達、私に興味なんか無いから」
そこで、私の顔は何の感情も映し出さないような冷徹な表情をしたのが、置いてある鏡でわかった。
渚君の表情は、怖くて見る事なんて出来なかった。
「あの人は、スキャンダルが一番嫌いでね。
いっつも口癖のように、『無闇に男に近付いてネタを増やさないでくださいよ』って言う。
もし私に好きな人が出来たのなら、間違い無く私じゃ無く相手をどうにかしに行くような人間」
「雪乃ちゃんは、そんな辛いのに歌手を続けたいと思うの?」
強い視線を感じて、振り向く。
そこには、真っ直ぐに私を見つめた渚君。
私を本気で心配してくれているのが痛い程に伝わってくる。
胸が締め付けられるような感覚になりながら、
「私は、目的の為なら手段を選ばないから」
はっきりと言いきった。
満足いかない顔をしたままだったが、やがて無理はしないでねと笑って言った。
けれど、その顔は明らかに笑ってはいなくて。
僅かに怒気を含んでいた。
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作者名:聖泉りか | 作成日時:2015年2月9日 2時