#38 ページ39
ドレッサーの前に無理矢理座らされた私の前には、怪しい笑顔の業。
その手には、化粧品が握られている。
「ちょっと待ち給え、君化粧なんか出来ないでしょ初めてでしょそうでしょそうに決まってんでしょ!?」
「黙って」
「…………」
怖い怖い怖すぎる。
業の手は止まる事なく、迷う事なく動く。
何を言っても止めてくれそうに無い。
一度大きく溜息をつくと、私はされるがままの状態となった。
一通りの化粧が済んだ後、業はヘアーアイロンを手に持つ。
何処で使い方を知ったのか、軽く私の髪を巻いていく。
そして満足そうに微笑んでから、私を鏡の方に向けさせた。
「嘘でしょ…………?」
そこに映っていたのは、普段の私とは到底想像もつかない姿だった。
ストレートの髪は巻かれていて、比較的くっきりしているパーツは化粧によって柔らかくなっている。
いわゆる、ゆるふわ系な感じだ。
「これ、ホントに業がやったの?」
「俺以外に誰がいんの」
「ホント器用だよね、別人みたい」
鏡とにらめっこする私に、笑いながら話す。
「うん、だからこれで行けるでしょ?」
「え………?」
予想外の言葉に、思わず胸が高まる。
業は、私の為にこんな面倒くさい事までしてくれたのか。
「うん、ありがとう」
それが嬉しくなって今までに無い位の笑顔になった。
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作者名:聖泉りか | 作成日時:2015年2月9日 2時