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私が声を掛けたあと、ゆっくりと力の抜けていく業の手に寝ぼけていたのだと理解するのに時間は掛からなかった。
あんな事があったせいか、業を意識してしまって顔を直視出来ない。
しかし、起こさなければ後がこわい。
一度深く深呼吸をしてから、今度は大きめの声だけで起こす。
筈だった。
…………どうしてこうなってしまったのだろうか。
そもそもの原因は業にあると思う。
しかし、それを言うのは大分……否、かなり躊躇われる。
頭に食い込む爪が痛い。
私は、電車に揺られながら悪魔の笑を浮かべた業に謝罪する。
「ホントにすみません。
そんな怒んないでくださいよ。
確かにちょっと………いたい、爪食い込んでるって……!
あ、はい。
確かにもの凄く起こし方が悪かったのは認めますけどね、寝起きが悪いんじゃあ仕方な……くはないですよねー。
つまり何が言いたいかって言うとですね、回し蹴りしてすみません」
そう、馬鹿な私は感情が爆発して業に回し蹴りを繰り出したのだ。
もちろん、当たる前に業が起きてあっさり止められたのだが……。
起きた時の顔は思い出すだけでも恐ろしい。
当たっていたら、数日はネチネチと言われていただろう。
いや、言われるだけじゃ済まされないか。
事あるごとに奢らされ、パシリにされ、イタズラの実験台になるのだ。
当たんなくてよかった………。
内心ほっとしながらも、業への謝罪をし続ける私だった。
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作者名:聖泉りか | 作成日時:2015年2月9日 2時