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打ち合わせが終わると、マネージャーはいつもの笑顔を貼り付けて両親に挨拶して帰っていった。
いつも打ち合わせの時は席を外していて欲しいと言われ、その言葉に従っている母は私が痣を作っていることなんて知らない。
だからこそ、マネージャーが帰ったあとは決まって
「雪乃ちゃん、あんな素敵なマネージャーさんで幸せね」
と言う。
お前に何がわかるんだ。
つい、そんな言葉が口からこぼれそうになって奥歯を噛み締める。
この人に悪いとこなんて無い。
寧ろ、良くしてもらっているばかり。
だから私も決まってこう言うんだ。
「はい、本当によかったです」
そう、笑顔を貼り付けて。
母は私を不幸な人間だと思っているから。
母は私を可哀想な人間だと思っているから。
その不自然な優しさが居心地悪いのに気付かない。
きっと、母は財閥の娘だから優しさの境界線を間違えているんだ。
きっと、母は財閥の娘だから私との価値観がこんなにも違っているんだ。
「私、一度部屋に戻ります」
母に悪いところなんて何一つない。
私の本当の笑顔を知っていないのも、仕方がない。
けれど、だからこそ、私は母をお母さんと呼べないんだ。
踵を返した私は階段を一段一段、優雅に上がる演技をした。
私は、母の思い通りの人にならなくてはいけないのだから。
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作者名:聖泉りか | 作成日時:2015年2月9日 2時