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『桐谷ってどういうこと?』
業に言われた言葉が、何ども何ども繰り返し頭の中で木霊する。
「何って……別に、そこまで深い事情なんか…」
「じゃあ、何でか教えてよ。
深い事情はないんでしょ?」
この時にはもう、業の言葉は怒りを含んでいた。
「別に、どうでもいいじゃん。
………………………苗字が変わったことなんて」
そう、この桐谷という苗字は2年ちょっと前にもとの一宮から変えたものだ。
アメリカに行ってたった数ヶ月後の出来事。
「苗字が変わろうがなんだろうが私は私だ。
それ以上でも以下でもない。
……ずっと音信不通だったことは悪いと思ってる」
私は爪が食い込む程に拳を握りしめた。
「それでも、言いたくないことだってあるよ」
これ以上は言えないと、下唇を噛む。
怖くて業の目を見る事ができず、うつむいた。
どれ位そうしていただろうか。
たった数秒かもしれないけど、何分にも感じられた。
「………あ〜あ、そんな涙ためて言わなくてもいいじゃん」
そう言った業は自分の親指を私の口元に持ってきて、噛んでいた下唇をもとに戻す。
それから軽く頭をポンポンして言う。
「いつか話してくれんなら待つけど?」
私は頭の上に置かれた手が温かく感じて、やっぱりうつむいたまま、
「……いつか、業に聞いて欲しい」
そう答えた。
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作者名:聖泉りか | 作成日時:2015年2月9日 2時