味気ある ページ3
*
「うわ、、」
間一髪で踏み込むことのなかった、踏み切りを前に、安堵から俺はしゃがみ込んでしまった。
そこではじめて、俺がどれだけ思い詰めてるかがわかったのだ。
「死ぬつもりじゃなかったなら、やっぱり呼び止めて正解だったね」
後ろから、
さっき俺を踏みとどまらせてくれた声がした。
とりあえずお礼を言おうと、聞こえてきた声に振り返ると、
なんだか拍子抜けするように、イメージとはちがって。
いや、何をイメージしたのかなんて、別にイメージしてた訳では無いんだけど。
いかにも寝巻きな格好、買い物帰りであろう、ぼこぼこしたビニール袋を肩手に、
女の人は、なんとも言えない顔をしていた。
まるで、俺の心でも今から読んでやるかのような顔。
きっと、安心した表情を浮かべているだろうとでも、俺は思っているんだろうか。
予想外な顔をした女の人が、
俺を品定めしてるような気がした。
「あの、呼び止めてくれてありがとう。」
とりあえず、お礼だけを伝えると、
安心したかのように、女の人はにんまりと笑う。
なぜか感じる違和感の正体と、
さっきまで空虚に感じてた空間が、一気に息を吹き返したように感じることの意味が、
なぜだか、わかりたくないと思ってしまう。
彼女の面影がこの場に現れないのは、きっと、目の前の女の人が、
彼女と正反対だから。
にこりと微笑むように笑う彼女に対して、
にんまりとした笑顔が、あまりにかけ離れている。
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作者名：坊ちゃん | 作成日時：2020年2月15日 0時
