【放浪者】情けない私を大切にして (ページ5)

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情けなさ５up ページ5

「…………？？」

分からない。だから、首を傾げれば、彼は呆れたように読んでいた紙束を置いて見たくもない指先を紙の上を走らせる。

「これがスネージナヤの港。覚えて」

「……………はぁい」

似ても似つかない外国語。

指で示された部分を大人しく書類に写す。それが終わったら、また辞書で探しながら他の名詞も写す。

男、黒髪、散兵、部隊、

口にすれば分かるのに、書くとなると分からない。

「……私が書くよりも他の人に任せた方がよくありません？そっちの方が早いし」

ぶつくさ言いつつも行うのは、これくらいしかまともに仕事が出来ないから。

戦闘は弱い。

邪眼への適応も不可能。

交渉もほかのものに任せた方が早い。

となると、書類関係の整理やらに回されることが多くなる。一応、この人に訓練はつけてもらったおかげで逃げ足は早くなったけど。

「この間の後始末に全部つけたからね」

ぱらぱらと紙をめくる音。

この間、というのはどれの事だろう。倉庫で拷問した件のやつか、森を駆け巡ったやつか。

甘いジュースで口を潤す。

「それで人手が足りなくてね。だから、どれだけノロマでも役割を与えないと仕事が回らないのさ」

「ごぼっ！？の、のろっ」

「そこ、字が違う」

吹き出しそうになって咄嗟に口を押さえた。

ノロマ。それくらい、辞書をひかなくったって意味は分かる。

「………のろま」

横線を引き、訂正する。

「何、気にした？」

「そりゃ！……んぅ………いや………………………しましたけどぉ！？悪いですか！？」

でも、否定できる言葉じゃない。

戦闘もできない。特筆すべき特技もない。功績という功績もないのに、ここにいる。忠誠心なんて尚更ない。

それなのに当たり前に組織にいる人間をなんと呼ぶか。

確かに、ノロマとか、愚図とか言われても仕方ない状況だ。

「……そう、ならそれくらいの報告書は早く書けるようになった方がいいんじゃないの？」

当然の正論に繊細な部分が抉られる。

細い指が近くにある本棚から一冊、分厚い本を引き抜いた。

「後でもう一度、一通り教えてあげる。だからまずは仕事を終わらせるんだよ」