【嗜好・興味：呪霊】.3 (ページ21)

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第112話　愛別離苦⑤ ページ21

「貴様が好きだろうがなんだろうが、儂はまだ貴様が嫌いだ。勘違いするでないぞ！！」

「えー」

くるっと体を反転させて空を仰いだ。

『その嫌いな人間の膝の上で気持ちよく眠っていたのは誰でしたか？』

「お、花御そんな煽り方する子だった？」

漏瑚はそれに顔が赤くなるほど怒ってそっぽを向いてしまう。

傑がずっと砂浜に立って海を眺めている。さっきの会話も多分聞いていただろう。

「…あれは違う」

ぼそっと小さい声で言う。

「？」

「貴様の左腕のせいだ」

俺は自分の左腕を見た。

「……あっ、手袋してない」

治療された後、報告書を書いてすぐ漏瑚の気配を探した。

その間もずっと手袋を着けるのを忘れていた。

真っ黒な手をぐーぱーしながら呪力を見る。

「あぁ～出てる出てる」

ある程度の呪力の漏出を抑える手袋型の呪具。

いつもは着けているそれを着けていなかったせいで、ずっと呪力が左手から流れ出ていた。

「それが…なんだ……それだ」

「どれだよ。ツッコミ待ち？」

『心地良いと素直に言ってください』

「心地？……へえ、そうなんだ」

呪霊にとって、この左腕から出る呪力は心地良いものらしい。

確かに任務で呪霊を呼び寄せるのに利用することもあるが、それは初耳だった。

「もっと触る？心地良いんだろ？」

横に座る漏瑚の頬にぐいぐいと左手を押し当てる。

うざったそうにそれをどけ……られるかと思いきや、何もせずただ俺の手に身を任せている。

「…？？」

俺からは横顔しか見えないが、心なしかまた眠たそうな眼をしていた。

やはりこの左手は心地良いらしい。

「…おっと」

かと思えば突然手に衝撃。
張り飛ばされた。

「随分“仲良し”になったんだな」

「傑……」

せっかく漏瑚がデレていたというのに、傑が来た途端立ち上がって遠くへ行ってしまった。

『漏瑚も素直になりましたね』

「私の前では嫌だったらしい」

仲間の割にはそこまで好かれていない傑。

俺も別に好きではない。
好きなのは呪霊であって呪詛師ではないから。

「ねぇ、花御は？花御は俺のこと好き？」

漏瑚は俺(の左腕)が好きだということが分かったが、花御は表情も感情も分かりにくい。

「同じ術式だし、未だに嫌われてると悲しいんだけど」

『好きですよ』

「え？？」