【嗜好・興味：呪霊】.3 (ページ13)

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第105話　雨降って地固まる⑦ ページ13

がるる、と苦しそうに呻く狼男は、刺さった木を抜くとそのまま落下していく。

俺もそれを追って飛び降りる。

やっと攻撃が入った今がチャンスだ。

自由落下に身を任せ、狼男が地面に着く前にもう一度棘で攻撃する。

「…クソッ」

今度は硬い皮膚に阻まれ刺すことが出来なかった。
もう一度だ、と棘を出したとき、狼男が着地してしまった。

自分は地面、相手は空中に。

こんな格好の的がいるだろうかと言わんばかりの笑みを浮かべ、自分のほうに向かってくる俺に爪を一振り。

思わずバリアと木で自分の身を守るように防御を固めたが、それも虚しく。

「ぐッッ……がはッ！！！」

激痛と衝撃。
攻撃による勢いで体が吹き飛ばされる。

木々を破壊しながら飛ばされていき、大木に当たってようやく止まる。

「っは……ぐぁッ…」

左手の感覚がなくなり、右肩から腰まで斜めに入る深い傷。

目もおかしく、右目が機能していない。
左目にも頭から流れる血が入り、まともに見えやしない。

思わず叫んでしまうほど、傷が焼けるように痛む。
幼少から繰り返してきた左腕を落とすときとは絶対に違う、経験したこともない痛み。

まだ正常に動く聴覚が、近づく足音に気付かせた。

満身創痍な俺を、呪霊は見逃してなんかくれない。

分かっていた。
呪霊とはそういうものだ。

情なんて持ち合わせていない、純粋に心から人をいたぶることを愉悦としている。

正面に迫る狼の爪が、随分遅く感じた。

(ここで死ぬのか＿

悠仁のこれからを最後まで見届けたかった。

普段塩対応な恵や野薔薇は悲しんでくれるかな。

二年はなんて言ってくれるかな。

悟には笑われるかもしれない。

同じ等級の俺を葵はどう思うだろう。

順平は、京都の子達は、学長は、佐々木先輩や井口先輩は、憂太は＿)

「っはは」

最後の最後で、特級呪霊達の顔が浮かんだ。

(なんでだろうな、敵であるアイツらを、最後の瞬間に思い出すなんて)

「とことん呪術師向いてないな、俺は…っ」

目を閉じて、それを受け入れようと力を抜いた＿

＿＿

いつまで経っても変化がない。
もう当たってもおかしくないというのに。

ゆっくりと目を開ける。
ほとんど見えていない中で人影を捉える。

狼男、ではない。

「では呪詛師にでもなるか？」

すぐそばに横たわる狼男は、灼熱に包まれ苦しんでいた。

「＿熱いよ、漏瑚」