【嗜好・興味：呪霊】.2 (ページ9)

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第56話　反省④ ページ9

花御の左腕の布が気になる。

「俺達同属性だよね」

『なんの話ですか』

穏やかな波の音。

樹木を操る術式。
左腕に隠し事。
同じ種の、他の者とは少し違うこと。

どこもかしこも、俺と花御は似ていた。

(花御が数センチ分けてくれれば悟を見下ろせるだろうな)

「花御はさ。もっと素直になりなよ」

真人が首を傾けて花御を見た。

『何も偽っているつもりはありませんよ』

「嘘つきって言ってるわけじゃないさ」

花御の声を近くで聞くと、音と意味が混ざって酔いそうになる。

頭の中で情報が一致しないから。

「君の戦う目的は知ってる。でもその過程、“戦い”という今現在をもっと楽しんだ方がいいと思うよ」

花御の戦う目的を俺はまだ知らない。

『真人は楽しいのですか？』

「まぁね。
でも、最中感じる愉悦や快楽が動機になったのはごく最近だよ。

気づけば欺き、誑かし、殺し、いつの間にか満たされている」

真人の言葉を聞いて、いけないことだと理解しつつ自分も似たようなものだと思った。

呪霊と戦い、蹂躙するのを楽しんでいる。
それは時間も忘れるほどに。

…その相手が人間ではないだけ、呪詛師よりマシではあるが。

「人間が食って寝て犯すように、これが呪いの本能なんだろう。

俺達は理性を獲得したかもしれない。
でもそれは本能に逆らう理由にはならないよ」

本能に逆らってくれれば人間と呪霊共存の道も開けそうなのだが、そうもいかないからこその現状だ。

俺も共存を考えたことはある。

呪詛師のように、人間の敵になる人間もいる。
呪霊だって人間から生まれている。

何度も試し、呪霊に話しかけたり、今もこうして関わっている。

そもそも俺の“呪霊好き”は普通の好きとは少し違うが。

「魂は本能と理性のブレンド。
その割合は他人にとやかく言われるもんじゃないけどさ、君の魂は少し窮屈そうだ」

ほとんどの呪霊が理性なんて持ち合わせていない。

「花御ってさ。本当はもっと、強いんじゃない？」

「…花御はまだ本能を抑え込んでるってこと？」

「無意識にね」

花御が戦っているところを見たことがない。
だからちゃんと術式を見たことすらないが、花畑を見た時にほとんど自分と同じだと察した。

「…そろそろ高専戻るね」

そう言って立ち上がり、少し砂を払って領域から出た。