第91話 休暇 ページ45
交流会でいろいろあって補助監督も疲れていることを考慮し、迎えは遠慮して自分の足で帰ることにした。
(事前に知っていて黙ってたことに対する罪悪感も少々…と)
日が短いこの時期、外は真っ暗だった。
しばらく歩いたが高専からはまだ距離があるくらいのところ。民家の塀の隙間から猫の金切り声が聞こえた。
鼠でもいるのかと少し狭いが奥に入って見ると、猫三匹に囲まれる兎という見たことも聞いたこともない状況に遭遇した。
さっきの声の主であろう猫は、前足から出血しているようだ。
(猫って兎を襲うとかあるの？)
疑問だったが、襲われる兎も猫の怪我も放っておけずに術式を使う。
手早く猫の足に巻き付けるように布を編み、こちらに気付いた猫達はすぐに散っていった。
「兎」
俺を見ても一切逃げようとせず、むしろ見つめてくる兎の顔にどこか既視感を覚える。
そのまま数秒経ってもちっとも動かない兎を不思議に思いながら、ならばこちらからと手を通して持ち上げた。
「見たことあるんだよなぁ…とてもとても」
兎の顔に浮かび上がっているのは、縫い目のような傷。
鼻の高さに横一本、右目を通るように縦一本。
「真人だよね？」
名前を呼んだ瞬間、兎が急激な変形を始めた。
びっくりして落としてしまったが、綺麗に着地したそれはもうすでに人間の形になっていた。
「三那人〜！！助かったよ！」
ぎゅーっと抱き着いてくる真人を、俺はなにがなんだか分からないまま見る。
「なんで兎？」
俺から離れ、どこから出したのか、頭からずぼっと服を着る真人。
「さっきさ、兎が主人公の映画見てきたんだけど、術式の暴走って言うのかなぁ…自分が分からなくなっちゃって」
それで兎になったまま戻れなくなっていたという。
「三那人が俺の魂を見つけてくれたから元に戻れたんだよ」
「へー、じゃあ見つけない方が世界のためだったかな」
「ひどいな〜」
どうやら俺は最悪の呪霊を助けてしまったようだ。
真人は礼を言ってどこかへ歩いて行った。
あの猫の傷は真人が抵抗した末のものだったらしい。
そのときは真人としての理性は無かったと言っていた。
(意味が分からない。疲れた)
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作者名：翡翠 | 作成日時：2021年5月14日 22時
