第51話 山奥の温泉 ページ4
俺は、追った先の排水口で真人を発見した。
ブツブツと言っているようだが知ったこっちゃない。
「ばーか」
近付いて、いい位置にある頭を横から蹴り飛ばした。
真人はかなり消耗して死にかけているが、手加減はしない。俺も死にかけているのだから。
「…あ！三那人！生きてたんだぁ」
「なにが“生きてたんだぁ”だよ、真人がやったのに」
ごめんって、と謝っているが全然反省していない様子の真人に苛立ち、もう一度蹴った。
「ごめんってば！ほら、俺の呪力が戻ったら治すから」
「あー…それはいいよ。じきに生えてくる」
「なにそれ？キモいね」
切り落とした箇所がジンジンと痛んでいる。
反転術式が使えるわけではない。
呪われた左腕は、切っても切っても生えてくるのだ。
ため息をついて真人の横に座る。
「許してくれた？」
「そんなわけ」
この恨みを絶対に忘れない。
疲れた…と横になっていると、足音が聞こえたので二人ともそちらを見る。
「真人、派手にやったな」
「夏油」
傑だった。
真人と傑はこれからどこかへ行くらしいので、俺も着いていくことに。
「あ、連絡入れなきゃ」
座った姿勢のままスマホを取り出す。
少しの着信。
《はーい》
「あ、悟。けーくんいる？」
《いますよ》
電話越しに悠仁と順平の声もした。
おそらく硝子のところだ。
呪霊を見失って悪いということと、もう少し探してみるということを伝えた。
全て大嘘だが。
《ねぇ三那人、怪我してんだって？》
「左腕だから」
《あーじゃあいっか》
悟は左腕の理解が深いのでいずれ生えることも知っている。
通話を終了した。
真人達に着いてく口実も出来たので、着いていくと言ったのに置いていく酷い奴らを追いかける。
(いてて、無いはずの左腕が痛い)
幻肢痛。
………………
山の奥深く、温泉が沸いている。
漏瑚が岩に座って休んでいた。
だいぶ回復している。
真人が服を脱ぎ捨てて飛び込んだ。
「はは、漏瑚びっしょびしょ」
煙管の火も消えてしまって投げ捨てている。
(漏瑚は火属性なのにお湯被っても平気なんだな。頭に溜まったりしないの？)
夏油が岩に座ったのを見て俺も座る。
漏瑚がまた、「何故いるのだ」という視線を向けていた。
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作者名：翡翠 | 作成日時：2021年5月14日 22時
