【嗜好・興味：呪霊】.2 (ページ16)

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存在しない記憶ページ16

「葵、また喧嘩か？」

校庭に形成された不良生徒の山のてっぺんに座っているのは、今年入学したばかりの東堂葵という少年。

とてもこの間まで小学生だったとは思えない彼は、入学して早々にこんな物騒な山を作り出していた。

「なんだ華御、説教しに来たのか？」

地面に降り立って、自身より背の低い男性教師を見下ろした。

「違ぇよ。いいから着いてきな」

そう言って歩き出した教師の背中を東堂は怪訝そうに見つめた後、素直に後を追いかける。

この教師、華御三那人と東堂の出会いは偶然であり、しかし東堂自身はそれを必然と考えていた。

三那人が立ち止まったのは、一軒の古びたラーメン屋の前だった。
そこは三那人の行きつけであり、さらに東堂とこれから出来る親友の行きつけにもなるのだが…それはまた別のお話。

「ほら、奢るから好きなの食えよ」

メニューを指差してそういう三那人の目は、真っ直ぐに東堂を見据えていた。
その言葉に東堂は遠慮せず食べたいラーメンを選ぶ。

「美味いか？」

自身はサイドメニューの餃子だけを食べる三那人は、美味しそうにラーメンを啜る東堂をじっと見ている。

「葵。俺が中学生だったときは、地元じゃ負け知らずで“狂犬華御さん”なんて呼ばれてたんだぜ」

「だからどうした」

「別に喧嘩することが悪いなんて言わないさ」

最後の餃子を口に入れ、でもな、と続ける。

「葵、好きな子…いるだろ」

「…なッ…！」

なんでそれを、と東堂は言おうと思ったが、図星を察されては敗北感があり押し黙る。しかしそれがかえって肯定になってしまっていた。

「その子はどんな子だ？よく考えてみろ」

東堂は自身の想い人、高田ちゃんのことを思い浮かべた。

彼女が今の自分を見たらどう思うだろうか。
失望？嫌悪？少なくとも好意は向けられまい。

「…すまない、華御。

いや、華御先生。
俺が間違っていた」

かしこまってそう言う東堂に、三那人は苦笑いを浮かべた。

「いいよ。生徒を正しく導くのが教師の仕事だからな」

食ったなら行くぞ、と会計を済ませて出ていく三那人の背中は、東堂の目には先程よりも大きく見えていた。