閉じ込めちゃいたい【乙骨憂太】

喪失感 ページ36

「それじゃあHR始めるぞー」





あれから1週間が経った。



前までとても長く感じていたはずの時間が光の如く過ぎていく。




今となってはちゃんと言いたいことも言えるし、感情もちゃんと沸くようになった。



ご飯もちゃんと美味しい。



前とは比べ物にならないほどにとても充実した毎日。




でも何故か、心の奥底でいつも喪失感を感じていた。





「今日は午後の体術がない。連絡は以上だ」



「え、今日午後ねえの？よし、みんなで遊び行こうぜ」



「いいじゃねえか。最近忙しかったしな」



「しゃけ！」



「Aはどうだ？予定ないよな」





教室に並んでいる5つの机。



いつも決まって私は左から2番目の机に座る。




そしていつも空いている私の隣。必ず少し傾いているその机。



改めて注視してみると、くぼみが出来ていたりシャーペンで

塗りつぶされている箇所があったりと、他のものに比べて汚かった。





「おーいA？聞いてんのか？」





気になってそっと手を伸ばしてみる。



明らかに人の手によって作られたくぼみとシャーペンの跡。




これは多分......乙骨くんが付けた跡だ。




苦しくて、どうしようもなくて、授業もろくに聞けずに付けてしまった跡。



ゆっくりとその跡をなぞってみる。




角があって、鋭くて、いい加減で.......なぜだか、落ち着く。



なんでだろう。どうしてこんなにも、落ち着いた気分になるんだろう。





「はぁ.....Aも行くってことでいいんだよな？」





自分の両手首を眺める。



ここにあったはずの傷。空気に触れるだけでジリジリと傷んで、苦しめられてきた傷。




もちろん痛かった。外してほしいと、そう思っていた。




.......でも、なんだか今はあの鎖が恋しい。



自分を縛るあの鎖が、自分の腕や足にかかっていない現状に違和感を感じる。




なん、だろう。今日の私、何かがおかしい。

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