episode.5 ページ5
.
___完全に油断した。
身を引く間さえ無いほど、ギリギリまで手榴弾の存在に気付くことが出来なかった己の動体視力を呪う。至近距離に転がるそれに流石に死を覚悟せざるを得なかった。
が、それがただの手榴弾でない事にはすぐ気付いた。
「…発煙手榴弾か」
ゆっくりと目を開ければ、視界に広がっているのは崩壊した廊下ではなくただの目眩しの煙だけ。
「なんのつもりやねん」
沸々と何かが込み上げてくる。が、今はその感情を相手している場合じゃ無い。あの女を追おうと一歩足を前に進ませたところで、ふと背中に声を投げかけられた。
「あ、おったゾム‼」
急いでこちらへと走ってくるのは、太陽みたいな明るい金髪にユニフォームがよく目立つ我々国幹部の一人『コネシマ』だった。
「…なんやシッマか」
「なんやってなんやねん‼じゃなくて、お前グルッペンの命令通り殺してない、やろ、な…」
コネシマの言葉は段々と歯切れが悪くなる。
それもそのはずだ。右手に持つ血塗れのナイフを見てコネシマは絶句し、全てを察したかのように深く長いため息をついた。
「お前なぁ…。色々聞き出さなあかんのに殺してどうすんねん‼」
「まだ殺してへんし…」
「“まだ”って…まさか逃げられたんか？」
こいつに限ってそんなことあるのかと言いたげにコネシマは眉をひそめたが、付近に死体が転がっていないことに納得したのか、
「…とにかくその様子やと相手は満身創痍やろ。ロボロに監視カメラで追ってもらって発見次第捕獲、治療やな。一旦グルッペンの所に戻るで」
「…ああ」
生返事で受け答えして足を一歩進めた瞬間、視界が急に霞みがかった。発煙手榴弾の煙かと思って手で払おうとするが、それが無くなることもなく。
___気付いたときには、自分の身体は地面へと倒れ込んでいた。
「は？おい、ゾム？…ゾム‼」
.
逃げてきてもう何十分経ったんだろうか。手足がちゃんとくっついているのか不安になる位、感覚がまるで無い。優先順位から考えるに心臓に回す為に、先に手足への血液の供給が途絶えたせいなのだろう。
ただそれ以前に腹部からは止めどなく血液が流れ出て、手で抑えようと思っても指の隙間から溢れ落ちていく。
この様子じゃ私もここまでなんだろう。
無駄な抵抗も、死への抗いも諦めて、壁に身体を預けてそのまま背中から落ちていった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 484人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
haiiro(プロフ) - さん» 勿体ないくらいのコメントありがとうございます！今後も地道な更新ですが、よろしくお願い致します。 (2021年7月5日 23時) (
レス) id: 5cfb19773b (このIDを非表示/違反報告)
haiiro(プロフ) - きのこさん» こちらこそお読みいただきありがとうございます。楽しんでもらえて何よりです…！ (2021年7月5日 23時) (レス) id: 5cfb19773b (このIDを非表示/違反報告)
- 誤字失礼しました、更新いつまでも待ってます！ですm(_ _;)m (2021年7月5日 16時) (レス) id: 6216055e94 (このIDを非表示/違反報告)
- すごい！こんな神作品見たことないです…更新いつまでも待ってるんです、無理はしないでください！初コメ失礼しましたm(_ _)m (2021年7月5日 16時) (レス) id: 6216055e94 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ(プロフ) - ストーリーがめちゃくちゃ面白くて引き込まれました…！神作品を作っていただきありがとうございます！！ (2021年6月27日 20時) (レス) id: 40eb1cfd02 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：haiiro | 作成日時：2021年1月23日 20時
