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『ねぇ、知詠。あなた、何者?』
知詠は振り向かずにどんどん歩いて行く。小さな歩幅なはずなのに、着いていくのに精一杯だ。
知詠「知詠はね、過去なの。ここも、過去だけど、未来なの。」
『え?どういうこと?』
知詠「急いで、A。」
『名前、、なんで、、』
知詠「急いで。」
引っ張る力が、小さな子供の力じゃない。少し不気味に感じたけれど、知詠からは邪気は感じられない。
山の麓まで来ると、街の人達が悲鳴を上げながら川に向かって走っていた。街の家という家が炎に包まれて、奥の方で火柱が上がり、建物が崩れる音が聞こえてくる。
ここで、ある違和感に気付いた。
『知詠、ねぇ、この人達、、私達のことが、』
知詠「見えてないよ。早く、こっちだよ。」
まだぐいぐいと引っ張られながら、人の波に逆らって歩き出す。ぶつかりそうになる人々は、知詠やわたしの身体をすり抜けて走り去っていく。
『どうなってるの、、?』
知詠「A、あそこ。」
知詠が、握っている方とは逆の手で何かを指差した。
『えっ、、あれって、、、知詠?』
人々が走る道の真ん中に、傷だらけの知詠が泣き叫びながら座り込んでいた。
わたしの手を握っている知詠は、その泣き叫ぶもう一人の知詠をじっと見ている。
『駄目、あんなところにいたら危ないっ、』
走り出そうとするわたしを知詠は握っている手に力を入れて止める。大人ほどの力だ。
知詠「駄目なの。A、駄目だよ。」
『え?どうして?あのままじゃ、』
その瞬間、走り去る人々の足が、道で泣き叫んでいる知詠を蹴り飛ばして、知詠はその場に倒れてしまう。
『あっ!!駄目!!』
逃げ惑う人々は道に倒れ込んでいる小さな子供に気付かずに、次々に足蹴にして、踏みつけて走っていく。
『駄目!このままじゃ死んじゃうよっ!!』
泣き叫んでいた知詠の声がだんだんと聞こえたくなって、起き上がろうとしていた身体が、だんだんと動かなくなる。
『知詠!離して!!助けないと!!』
知詠「駄目なの。知詠は、、」
道に人が減っていくと、知詠がぐったりして道に横たわっていた。ぴくりとも、動かない。
『そんなっ、!』
わたしの手を強く握っていた知詠は、やっと手を離してくれる。
道に倒れている知詠に駆け寄るけど、もう虫の息だった。
抱え上げようとするけど、やはり、体がすり抜けてしまう。
『うそ、、そんな、、どうして、、』
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作者名:スヒョン | 作成日時:2024年3月2日 22時