「友達」 ページ9
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『ラウールside』
ラウール「次からは、引っ込めないで。」
ラウールくんは私の目を真っ直ぐ見てそう言った。握った手にぐっと力が込められて、思わず握られた手を見た。
驚いていると、ラウールくんは少し腰を屈めて私の目線に合わせる。
ラウール「僕の前では、大人っぽく振る舞わなくて良いよ。同い年なんだし。」
『え、、』
なんでそんな顔をするんだろう。
悲しそうな、悔しそうな、怒っている様にも見える。
なんでそんなこと、言ってくれるんだろう。
ジャニーズ事務所に所属しいてる人たちにとって、わたしは邪魔なはずなのに。
そんなこと言ってもらえる様な存在じゃないはずなのに。
どうして歩み寄って来てくれるんだろう。
ライブ配信のコメント欄もTwitterもAKIRAのファンや応援してくれる人は確かにいた。
でも、そうじゃない人の方が圧倒的に多かった。分かっていたことだけど、分かっていた何倍も苦しかった。
言葉は凶器だって言うけど、ほんとにその通りだと思う。コメントを見るたびに心に爪を突き立てられている気分になる。自分の事を、自分の存在を邪魔だと思っている人がたくさんいると思い知らされる。
強く固めたはずの覚悟や決心が、少しずつ、でも確実に、砂でできたお城に石を投げつけて壊していくみたいに、ずしりと重い物を残して、崩れていく。
お父さんとお母さんや、ファンの人達は、これを見てどう思うんだろうか。
仮面舞踏会を踊りながら頭の中でそんな事をずっと考えていた。
それでも、顔に出してはいけない。弱音を吐いてはいけない。弱いところなんて見せてはいけない。
自分で決めた道、望んで選んだ道、好きな事をやらせてもらって、環境にも恵まれている。わたしのせいでジャニーズ所属を辞退してしまった朝日さん達の為にも、わたしが弱音を吐くなんて、許されない。
そう思っていたのに。
ラウール「僕は、椎名さんの味方だよ。」
目の前にいるラウールくんがそう言ってくれた。
わたしの気持ちを代弁する様な表情で、真っ直ぐそう言ってくれた。
でも、なんて返したらいいのか、分からなかった。
わたしは、真っ直ぐラウールくんの顔を見られない。
悲劇のヒロインになるつもりはない。
同情が嫌だったんじゃない。誰もが羨むヒロインになんてそんな大層なものになれるとも思ってない。
わたしは、自分の人生という物語の主人公になりたかっただけ。それを、自分に言い聞かせただけ。精一杯の鼓舞のつもりだった。
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作者名:スヒョン | 作成日時:2024年1月16日 23時