朧の都に棲む妖

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本当に目の前で起こった出来事なのか、それとも道中色んなモノを見てしまったからそう見えてしまったのか、疲れ切った体と頭で直ぐに結論には辿り着けそうに無かった。

「辰哉」と呼ばれるその人の顔を恐ろしくて見ることができずにいると、反対側の襖から声がする。




「やめとくれよ、わたしの客だよ。」




どこかで聞いたことある声のような気もするが、そこから入って来たのは、胸元まで襟を押し広げ桜模様の着物を着た少し背の低い男の人。鎖骨の間には変わった形の黒子があって、"妖艶"という言葉がしっくりくると直感的に思う。




「なんだい急に入って来て。
あんたが手当てしてくれって言ったんだよ。」



「手当てしてほしいとは言ったけど、脅して素性を聞き出せなんて言っちゃいないだろ」



「素性の知れない子を招き入れた時点で、照に叱られるのは俺なんだよ。迷子の子猫を拾って来たんじゃ無いんだから、何かしら訳ありなんだろ。
口が効けないってのも本当かどうかわからないじゃ無いか。」



「だからって女の子を脅すことないだろ。全く、」



「・・・ん？」




目の前で繰り広げられるやり取りに目が回りそうだった。ただでさえ先程の幻覚とも思える光景に腰を抜かしているのに、口が効けないという嘘も、女であると言うことも、あっさりと見破られていた。

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