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「あー、えっと……、その、言いにくかったらいいんだけど、……なんで泣いてたの？」
その質問が来てドキリとする。
「あぁ、本当、ごめんね」と慌てて謝るせんぱいは何も悪いことをしていないのに、こんな事で泣いてたなんて知られたら、笑われるんじゃないかと思ってしまった。
「その。いじめ、とか？だったら、先生に…──」
「ちが、うんです。…その、彼氏に振られちゃって」
「……何も、言わなかったの？」
「言ったら、めんどうな、女だって、思われちゃいそうで」
今まで自分の意見をあまり言うようなタイプじゃなかった。
みんなの輪に混じって、提案された言葉に賛同して、いい時も嫌な時もただ黙ってみんなの邪魔にならないようにして、心の声なんて吐き出せる時はなかった。
「そんな事ないと思うよ、俺は」
「……」
「恋愛って、一人の事じゃないから、もっと自分の感情言ってもいいんじゃないかなって」
「まだ、好きなら好きって伝えてもいいと思うよ」なんて言われるが、「はい、」と返事するだけで納得はしていなかった。
伝えて、別れない結末がくるとは思えないから。
それなら、早く諦めてしまう方が、簡単だと思うの。
「…まあ、俺が言えたような事じゃないけどね」
「え、」
カチャンと救急箱を閉じる音の後に、にこりと微笑んだせんぱい。
独り言のように呟いた言葉に反応してしまったが、今のせんぱいを見てるとさっきの反射は間違えてしまったんだと思った。
「よし、終わり〜」
「あ、ありがとうございます」
「ううん。見過ごせなかっただけだし、気にしないで」
スっと棚から白い包帯を手に取るせんぱいの声はどこまでも優しくて、座ったまませんぱいに視線を送っていた。
「じゃあ、俺はもう行くね」
「は、はい。ありがと、ございました」
「…もう、転ばないように気をつけてね」
そう言って保健室を出ていったせんぱい。
取り残された部屋の中でせんぱいが治療してくれた箇所に視線を落として、最後に涙を流した。
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