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「そらる先生、失礼します」
「矢野先生…？それに君は…」
そらる先生と会うのは泣いてた日以来だ。なんだかここに来る時は凄く胸が苦しい。1ヶ月もないくらいの期間なのにあっという間だった気がするのに、思い出すのはココ最近の不幸な事ばかり。
それよりいい思い出があるはずなのに、それを上書きしてくるように心を塗りつぶしていた。
「体育の時ポールが足に落ちて……。ゆっくり下ろすね」
「すみません」
「謝ることなんてない。私も注意深く見てなくてごめんなさい」
矢野先生が謝ることなんてひとつもないのに…。
寧ろ、わたしが……。
申し訳なさそうな顔をする矢野先生はわたしを椅子の上に降ろしてからぎゅっと手を握ってくれた。先生が握ってくれた後に気がついたが、自分の手が小刻みに震えていた。
怖かったんだ。
もしあの時、望ちゃんが声をかけてくれなかったら……。
その先を想像してしまい瞳を強く瞑る。瞑った所でその思いが消える訳でもないんだけど、現実から目を背けるように前を閉じる。
「市川さん。花折さんのことお願いしていいかな？」
「はい！任せてください！」
「そらる先生、よろしくお願いします」
「うん。わかった」
矢野先生も教師だ。わたし一人の為に他の生徒を放って置く訳には行かない。
名残惜しいのかそらる先生を見つめる矢野先生。この二人の間には何とも言えない空気が広がっていた。そういえば少し前に望ちゃんに聞いたことがあった。「噂なんだけど〜、そらる先生と矢野先生は付き合ってるんじゃないかって！……どう思う？？」なんていう話を。
二人とも薬指に指輪はしてないけれど、確かに今の雰囲気を見て「恋人だ」と言われればそう見えるかもしれない。
茶髪でロングヘアの矢野先生はどちらかと言えば綺麗と言われるような人で、そらる先生の横に立っていてもおかしくない人だ。
ぼーっとそんなことを考えていると矢野先生から「ちゃんと治療して貰ってね」と優しい言葉を言われて現実に引き戻された。そらる先生にお辞儀をして矢野先生は保健室から出て行く。
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