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歩きずらい。家から学校までの道中、足取りがいつもより重く感じるのは気の所為じゃない。チラチラと向けられる視線は鋭く尖って、あと一歩近づけば刺されそうなほど接近している様に感じる。
「ほら、あの子だよ」
「え？何が？」
この耳を塞げてしまったらどれ程楽になれるのだろうか。数人グループの中で繰り広げられた噂は、耳に届いた人がまるで自分が見つけてきた話のように自慢しながら話す。
「志麻先輩に媚び売ったとかで噂になってるの、しらない？」
「え、あんな地味な子が？なんで？」
手柄を持っていくように。話自体に面白みを持たせる為に少しずつフィクションを味付けする。出来上がった噂が本来の味かなんて関係ない。その話で何処まで退屈な日常を楽しませるかが主体であって、それ以外はお飾りに過ぎないのだ。
「なんか、放課後一緒にいた？みたいな……噂によると後つけ回して同じ電車に乗ったとか言ってたよ」
「何それ……きも……、」
わたし本来の人格なんてそこには必要ない。
自分より駄目な人間が居て安心したいだけ。
自分の常識を人に披露したいだけ。
自分が孤独にならないように、同調してるだけ。
「人は見かけによらないっていうけど、本当だね」
「ストーカー女じゃん」
YESが増えた結果がこれだ。多数の人間がひとつになって鈍い刃物を研ぎ澄ましてくる。その刃物が後数ミリで、この胸を貫通してしまいそうだ。
「……」
教室の扉を開けた瞬間、音は一斉に停止した。一歩、教室に踏み出したのを合図に小さく小さく噂をこぼしていく。じっと見つめられる視線に声は乗らない。変わりに居心地の悪い空気を与えられた。
……やっぱり、慣れないな…。
この感じ。
数日間ずっと。
日を増す事にそれは強く大きくなっている気がする。
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