【歌い手】恋する彼女 vol.5【完】

◯ ページ40

【 ムチヒロイン 】

バチンっ。

酷い音の後に、現状を理解していないまふまふが叩かれた頬を抑える。あまりの衝撃に零れるはずだった涙が奥に引っ込んだ。

同じ目線になんて立ってやらない。だって、彼が『そう』選んだのだから。


「一人になりたいなら、ネットなんて辞めなさい。目立つ所まで着て被害者アピールするのは辞めなさい」
「……っ、」
「出来たはずでしょ？一人になりたいなら、無人島でもジャングルでも行けば良かったのよ！ネットなんてない、人なんて居ない場所に行けば良かったじゃない！」

「そんな、の」


揺れ動く瞳。できっこない。
そんな無謀なこと死することと同じなのだから。
いつか忘れられるのが怖くて、恐ろしくて。ひっそり目立たないようになんてここに居るだけ無駄なのだ。


「……ホントは、…っ、」
「強がるのも大概にして。素直に『傍にいて』って言えば良いじゃない。あなたを待ってる人、たくさんいるのよ？」
「……う、ん」

震えた声で彼が手を伸ばす。
動き出した初めの1歩は時間がかかるもの。


―――強く生きよう。馬鹿みたいに足掻いて、届かない夢を見よう。

ムチちゃんは手なんて差し出して上げない。
だって、それがいいって言ったから。
大人になるにつれ自分の発言には責任を持たなくちゃいけなくなったから。世間はそんなに甘くないよ。だから伸ばして、掴んで。

そこに生まれるのは信頼で。正義で。
彼女の隣に立ちたいと願うのだ。


『救った』なんて1ミリも思ってない。

不安に立ち向かう勇気を彼が出しただけ。
本当の強さを隠して生きるのは、恥よ。

『知らなかった』なんて、それだけで罪なのよ。


簡単に『孤独』なんて『死』なんて望んじゃダメよ。
『死』は高いんだから。

3億稼いでから、出直してきな。

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