ていねいに紡ぐ ページ5
時間も忘れてはしゃぎ回ったあとで、俺達の家へと歩き出した。携帯に浮かぶ数字たちは、もうすでに6時過ぎを示している。日中はじっとしていても額にじんわりと汗が滲むくらいであったのに、日が傾くと冷たい風が頬を撫でる。そんな節に、長かった夏の終わりを感じた。
だらだらと歩き続けて、あっという間に家の前まで来てしまった。二人でなんでもない会話をするこの時間が、永遠と続けばいいのにと何度願っただろう。
そんな願いとは裏腹に、時間は残酷にも過ぎ去っていってしまう。
「あっという間だったね、」
「…そうだな」
今日が終われば、とうとう別れがやってくる。別れというものはいつだって虚しくて、小中高の卒業式だってそれなりに悲しかったけれど。彼女との別れはそんなのとはわけが違う。
およそ19年の今までの人生の、そのほとんどに彼女の存在があった。幼馴染だからと言ってしまえばそうであるし、それだけでないと言えばそうなのである。
「鉄朗、今日はありがとね」
俺の家の前で、さよならの言葉を告げようとした彼女を感じ取った。まだ終わりにしたくない、心の中で確かにそう思っている。叶うのならばこのまま明日も明後日もその先も、ずっと今まで通り続いていけばいい。それは実現しない願いだと分かりきっているのだけれど。
「まって、まだあんの。これでほんとに最後だけど」
しんみりとした空気を破るように少し声を張った。彼女を繋ぎ止めるように手を掴んで、もう片方の手に引っ掛けたビニール袋から、線香花火を取り出す。それを彼女に差し出すと、彼女は俺の目を見て、それから吹き出すように笑った。
その笑顔を見た途端、どっと安心感が押し寄せてくる。
バケツに水を張って、花火と一緒に買った蝋燭に火をつける。ゆらっと煙をあげて燃える炎が、夜の闇に浮かんで見えた。
「花火とか久々だなー」
「中学校の時やったよな、研磨ん家とみんなで」
「ね、懐かしい」
花火の先端を火に近づけると、たちまちパチパチと音を立て始めた。熱の雫をぽたぽたと落として、俺たち二人を夜の世界に閉じ込める。
−−まるで二人だけ世界に取り残されたみたい。
「なぁ、」
最後に彼女に伝える言葉があるとするならば、そを伝えるのはきっと今だ。理由はない。なんとなくそんな気がしているだけだ。
ていねいに、慎重に、言葉を紡ぐ。
俺の最後の台詞を、どうか聞き届けてほしい。
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朱里(プロフ) - おと〜ふ。さん» 読んでいただきありがとうございます！感想をいただけてとても嬉しいです（ ; ; ）描写はいつも一番悩んでいるところなので、そう言っていただけて嬉しいです。励みになります。ありがとうございます！！ (2018年9月30日 18時) (
レス) id: d7d2aff1aa (このIDを非表示/違反報告)
おと〜ふ。(プロフ) - このお話めちゃくちゃよかったです！描写とかの表現も綺麗で、目次が泣かせにきてて、もう最高でした！！これからも楽しみにしてます(*´∀｀*) (2018年9月30日 14時) (レス) id: f4bc1fabd3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：朱里 | 作成日時：2018年9月29日 23時
