にじむ太陽に ページ3
スーパーを出て駅の方角へ少し歩き、小さな公園に到着した。ペンキの剥がれた鉄棒の隅っこにスーパーの袋を引っ掛けて、中から水風船を選び出す。その片方のパックを彼女に差し出して、水道の蛇口を捻った。
勢いよく飛び出した生ぬるい水が地面に落ちては上へ横へと跳ねる。水風船ひとつひとつにそれら飛沫を閉じ込めて、きゅっと口を縛ると地面にまとめて転がした。
それを繰り返し量産された水風船たちを二つに分けて、俺と彼女とで半分ずつ手にする。
「よし、じゃあより濡れた方が負けね」
イタズラを思いついた子供のような笑顔で言った彼女に、俺も合わせて頷く。互いに意気込みをぶつけ合って、彼女の合図と同時に水風船を投げ合った。
青空をバックに、放物線を描くようにして彼女の方へ飛んでいく水風船を眺めていると、同じようにしてこちらへ向かってくる風船が視界に飛び込んでくる。その瞬間だけは、時間がゆっくりに感じた。
「うわっ！鉄朗、一切手加減なし！？」
「真剣勝負だからな！」
俺が投げた水風船を、辛うじて避けた彼女の不満を含んだ声が聞こえてくる。
高校時代、軽音楽部でベースをかき鳴らしていた彼女は、運動は得意じゃないと平生からよく口にしていた。それに反して俺は青春のすべてをバレーに捧げたと言っていいほどバレー漬けの毎日だった。それを思うと、彼女の抗議も妥当なものかもしれない。
「大人気ないなー」
またも彼女の口からこぼれた台詞が空気中に波を作る。それと同時に彼女は思い切り腕を振りかぶって、俺がいる方向目指して振り下ろした。彼女の手から飛び出した水風船がまた宙を舞い、今度はさっきよりも速いスピードで飛んできた。
それを避けては、またすぐに次が来て。自分も負けじと投げ返して。小さな公園の中を走り回っては声を上げて笑った。水風船を投げ合うだなんて何年ぶりだろう。こうしていると、幼い頃の懐かしい感覚が蘇ってくるようだ。
手を離れた水風船が、地面にぶつかってはじける水飛沫は、まるで宝石をばら撒いたようにキラキラと輝いていた。眩しい太陽の光を閉じ込めて、空気中をさまようように。
子供の頃のように、難しいことは何も考えずに、ただ心のままに手指が、足が、体が動く。
この時間が、永遠と続けばいい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
朱里(プロフ) - おと〜ふ。さん» 読んでいただきありがとうございます！感想をいただけてとても嬉しいです（ ; ; ）描写はいつも一番悩んでいるところなので、そう言っていただけて嬉しいです。励みになります。ありがとうございます！！ (2018年9月30日 18時) (
レス) id: d7d2aff1aa (このIDを非表示/違反報告)
おと〜ふ。(プロフ) - このお話めちゃくちゃよかったです！描写とかの表現も綺麗で、目次が泣かせにきてて、もう最高でした！！これからも楽しみにしてます(*´∀｀*) (2018年9月30日 14時) (レス) id: f4bc1fabd3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：朱里 | 作成日時：2018年9月29日 23時
