【d!】蠱毒と女 (ページ5)

今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:460 hit

5 ページ5

同時刻。

小さな液晶が壁一面に広がる部屋に、小柄な布面の男が一人。背後には少数精鋭で構成された彼の部下が視察団と連絡を取り合い、城内の監視に目を光らせている。

「天」と大きく書かれた布の下では、いつものように忙しなく紅梅色の瞳が動いていた。

我らが総統からの合図を確認し返答するや否や、男はすぐさま通信先を切替える。この城のすべてを網羅した監視下で、鼠を逃すことは許されない。

一人、不自然に廊下を彷徨う人間がいた。

腕章を身につけているため、一見の身内の人間に見えるが登録されている生体認証に該当者は無し。
最低でも魔法で顔は変えるものだが、それすら行わずに入ってきた袋の鼠。魔道具を使用する気配もなく、ただの捨て駒のようだ。恐らく城内の配置を探っているのであろうが、それは必然的に不可能(・・・)である。

「…まぁた、阿呆鼠や」

モニターに映し出された鼠を横目に見ると同時に、男は耳元にあるインカムに触れる。すると、城内に何千とある隠しカメラの方向を見る男が一人。
どれだけ高度な魔法で細工をしても、必ず視点を合わせてくる男。つくづく味方でよかったと感じる。

「__コード27"脅威"に告ぐ。3階第二応接間前に鼠を確認。至急捕縛し、地下牢へ連行せよ。」

〈…ん〜了解〉

途端、画面から消える男。そして3階の廊下には縛られた男と数十秒前までは7階に居たはずのアイツが居た。

後ろから感嘆の声が聞こえてくる。この常人では絶対に出来ない芸当を、素でやって退ける人間…いや、"人間"と言っていいものなのか。

〈なぁ〜"ロボロ"！コイツ食ってええかなぁ(・・・・・・・・)？〉

片手で成人男性を軽々と持ち上げると、男はフードを下ろした。普段は隠されている萌葱色の瞳は長い前髪の隙間から爛々としているのが一目でわかった。

「ん〜、基本事項ちゃんと聞き取りしてからならええんちゃう？知らんけど。あ、でもお前今月ソイツで何匹目(・・・)や、10超えたら駄目なんやぞ」

〈…何人目やっけ、こいつ。〉

「分かれへんなら止めやとけ。"ゾム"が暴走したら誰も止められんねんで」

それもそうかァ、とゾムと呼ばれた男は、捕まえた鼠を担いだまま歩き出す。

〈あ、そういえばロボロ。この前おもろい話聞ぃたぞ〉

「？なんやその話って」

ゾムはにぃっと、その鋭い歯を剥き出して笑った。