盃 ページ5
(side You)
混乱する頭とは裏腹に、荷物をまとめる手はテキパキと動く。元々単身でこの船に乗り込んだ私にはほとんど荷物も無い。服とお気に入りの本、シャンクスさんに貰った髪飾りを鞄に詰め込めば、あっという間に部屋は空っぽになった。
朝起きたままにしてあったベッドのシーツの皺を伸ばし、布団を整える。真っ白なシーツの上に水滴がパタパタと落ちて、そこで初めて自分が泣いているのに気がついた。気づいてしまえば堰を切ったように涙が溢れて止まらなかった。
どうしようもなく悲しくて、家族だと、大切に思っていた彼らと離れたくなくて、親父さまの大きな背中をずっと見ていたい。彼の隣に立つ青い炎を纏うその人に、もう一度優しく頭を撫でられたい。
この場所に根を張ってでもこの船に乗っていたいと、諦めも悪く思ってしまった。
いつか来ると分かっていた筈の別れが、今、目の前にやって来て、まだその事実を受け止められないでいるのだ。
明日の朝になればこの船は島に到着し、そこで私とラグナちゃんがこの船を下りる。そうして何事も無かったようにモビー・ディック号は家族たちと彼らの夢を乗せて新世界の海に消えていく。私たちを置いて、遠く、遠くの海に。
伝説の白鯨は、誰にも負けること無く自由に海を泳いで行くのだろう。
もう彼らの背中を見る事も、労いの杯を注ぐ事も出来ないんだ。これまで私の作るもので生まれた笑顔を思い出すと、冷たいだけだった心に少しだけ熱が戻る。
このまま朝を待つのが怖くて、夜中にこっそり部屋を抜け、毎日いたそこにロウソクの灯りを持って向かった。
大きな食堂の隣。元は倉庫だった一室を私やサッチ隊長を含めた4番隊数名でせっせと片付け、ホコリだらけになりながら綺麗に掃除をして、それらしいテーブルとイスを見繕い、カウンターと棚を船大工にねだってどうにか作って貰った。
食料庫に眠っていたラム酒を引っ張り出して、出来たばかりの棚に並べた時、この部屋はバー、Drunken Whaleとして呼吸を始めたのだ。
灯りを落としたその部屋は始業前みたいでドキドキした。カウンターには昼に置きざりにしていたグラスがぽつんとこちらを見ている。
ああ、ごめんね
クロスを手に取りグラスを手に迎えた。少しのくすみを丁寧に磨くとロウソクの灯りをぼんやり映して輝く。小さな頃に見たウイスキーを思い出した。
そのまま黙々とグラスを磨いていると、誰かがバーの扉を開いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 115人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
がまお(プロフ) - ちルチルさん» ありがとうございます！！過去編もうちょっとだけ続くと思われます！これからもどうぞお付き合い頂ければ嬉しいです！！ (2019年5月13日 23時) (
レス) id: e776fbd167 (このIDを非表示/違反報告)
ちルチル - ついに過去編来ましたか！過去の夢主ちゃん可愛いですね〜(´ω`)これからも応援してますからどうぞ更新頑張って下さい！ (2019年5月13日 15時) (レス) id: d78596acdf (このIDを非表示/違反報告)
がまお(プロフ) - 焔さん» わあ！ありがとうございます！とっても嬉しいお言葉…！感無量です！ファンだなんておこがましすぎますが頑張らせていただきます！これからもどうぞお付き合いください！ (2019年4月19日 22時) (レス) id: e776fbd167 (このIDを非表示/違反報告)
焔(プロフ) - がまお様 Twitterの通知からこちらに来させて頂きました。とてもお話が面白く読みやすく没頭してしまい一気に読ませていただきました。ファンになりました、応援さてください！続きも楽しみにしております。 (2019年4月19日 2時) (レス) id: 05617d7299 (このIDを非表示/違反報告)
がまお(プロフ) - シャノワールさん» ありきたり展開で申し訳無いです…（;∀;）少しでも面白いと思って頂けるように頑張ります！！これからもどうぞ暖かい目で見ていただければと思います！ (2019年3月29日 1時) (レス) id: e776fbd167 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：がまお | 作成日時：2019年3月15日 15時
