あ、黄金じゃない方のマンネです ３

MORNING １ ページ44

Side SH

「兄さん、僕は、」

「カット」


ふう、と流石に現場にため息が漏れる。


Aと飲み明かして、歌って、翌日午後の撮影に望んだのはいいものの、監督から全くオーケーが出ない。
昨日はなかなかいい感じにAに兄貴らしいことをしてやれたと思ったんだが。


俺とAのシーンだ。俺は今日、まだ一言も話してない。
Aのセリフである、「兄さん、僕は、正直言って、嫉妬してる」というセリフがこのシーンの第一声なんだが、言い終わる前に監督が切ってしまう。

流石にAも申し訳なさそうにしているのだが、監督は何も言わず、じゃ、も一回ね、と撮影を再開させてしまう。

体調は関係ない。昨日だって少し酔っぱらったがAは酒に強いみたいだったし、睡眠だって十分とった。


車椅子に乗ったAの正面に立つのが決められた位置で、監督が止めないから俺もここから動けない。

『.................っ、』


監督はA地震に気づかせようとしてる。


きっと、監督はこの撮影でAを育てる気なんだ。

次に使えるように。



糸目の穏やかそうな顔だが、監督だってこの業界で生きてるんだ。損得なしで、こんなことしない。

昨日、俺はAに、伝えられることは伝えたつもりだ。あとは、Aが気づくかどうか。




「..................一旦、休憩」



監督の静かな声で、緊張状態の空気に風が通った。と、言っても冷たい風だったが。


Aに話しかけようとしたら、監督に呼ばれてしまった。手招きをしてるが、この呼び方はAに話しかけるなってことか。


「..........昨日、Aくんと話した？」
SH「あ、はい........」

「や、別に責めようっていうんじゃないよ。どうだった？気づきそうかな」
SH「................どう、でしょう。Aは、多分何もできないやつじゃないんです。何もかも、無自覚でやってるわけじゃない。でも、あいつの視野はとても狭い気がするんです。うまく自分の中身を理解できてない、みたいな」

「...............うん。そんなAくんだから、今回選んだんだ」
SH「..........そんなAだから、って、でも監督はそれを変えようとしてるじゃないですか」

「そう見えるなら、それは間違いだよ、スンヒョン」
SH「え？」

「彼の眼鏡を外したいんだ、僕は。彼がかけてるのはレンズの歪んだ眼鏡なんだよ」
SH「歪んだ.........？」

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