Drunken Whale (ページ46)

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お礼ページ46

(side Marco)

最近、Aの様子がどうにも変だ。

いつものようにバーに行ってもどこかぎこちない笑顔を浮かべ、酒を作る手は微かに震えている。

船内でばったり会うと慌ててどっかに隠れたり、声をかける間もなく飛んでいっちまったり。話しかけても目を合わせずに一言二言で会話は終わっちまう。

おまけに目の下にクマまで作って、悩ましげにため息をついたり…

(相当怖がらせちまったみてぇだよい…)

Aの様子がおかしくなったのは、あの日、敵襲に逃げ遅れたAの前で敵を蹴散らした直後からだった。

俺達の戦闘の現場を見た事がないA。更に彼女は元々、敵船で捕虜として捕えられていた過去がある。海賊はおろか、男が戦う姿なんて恐怖でしかないだろう。

実際、戦闘の後に暗い倉庫の中でAは泣き出してしまった。

あの場ではあれが精一杯。Aを守るためにはそうするしかなかったが、今思えば無理矢理にでも扉を蹴破って船内に押し込めばよかったと後悔する。

目の前で酒を作る手は相変わらず震えていた。

情けねえ話だ。守ったつもりで、結局は消し去りたい過去をほじくり返しちまった。

これ以上、こんな状態のAの前に現れるのは、きっと迷惑だろう。

マ｢…今日は帰るよい、またねい｣

一言残して席を立つ。もう夜も遅い、客はすでに俺だけだった。すぐに出た方が片付けるのも楽なはず。早めにAに寝てもらって、せめて目立つクマだけでも何とかしてやりたい。

足早に扉に向かうと、カウンターを拭いていたAが急いで駆け寄ってきた。

『あっ、あの、マルコ隊長！』

振り返ると何か言いたげなAが俯いている。熱でもあるのか、耳まで赤くして震えている。

マ｢おい、お前、熱でもあるんじゃ…｣

『これ…！』

意を決した様子で俺の左腕を掴むA。細い指が俺の手を取り、器用に何かを結び付ける。その指先は薄く色付き震えていた。

マ｢こりゃあ…｣

左手首に付けられたそれ。細い革紐数本が波を立てて絡まり合う。既製品にしては処理がいささか甘いそれは

『その…この間、守って頂いたお礼、です…初めて作ったから、ボロっちいんですけど…』

恥ずかしげに途切れ途切れで言葉を紡ぐ。耳まで染め上げた顔をおずおずと上げ、下ばかり見ているAは居心地悪そうに小さくなった。

どうしてこいつはこんなにも…

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