彼女には彼がいる【赤葦京治】 (ページ7)

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「赤葦、Aちゃんにフラれたの？ウケる」

ギャハハとデリカシ－の片鱗すら見せず、大笑いするのは黒尾さん。大学は違うのに時折遊びに来る。バレーとか関係なく、ただ面白いとか言う理由で。

「フラれてませんよ。まだ」

「時間の問題だって」

黒尾さんも大学でバレーを続けている。孤爪も一緒。こうやって意味も無く遊びに来ているのだが、偶にバレーの練習試合をする。だからAさんと黒尾さんは面識があった。ただ彼女曰く、

「黒尾さんって何人の女の子を泣かせて来たんだろう」

だそうだ。Aさんのイメージでは、あの及川さんの上をいくチャラ男らしい。

「フラれるのは分かってます」

だから俺は彼女に告白はしない。クールなふりして、本当は嫌われたり、今の関係が壊れてしまうのが怖いから、傷つきたくないから気持ちを伝えない。

「人の精神、えぐりにきたのなら帰って下さい」

お盆を持ち、さっさとこの食堂から立ち去ろうとした時、「赤葦くん！」と俺を呼ぶ声がした。声のする方を見れば、紙を振りながらピョンピョン跳ねるAさんの姿があった。

ついさっきまで彼女に避けられていた俺は、呆然とAさんを見つめる。すると彼女は人混みを縫うようにこちらに近付いてくる。俺を見上げた時、頬は紅潮していて、運命という単語を繰り返していた。

「まさかこのタイミングで当選するなんて思わなかったよ！ナイスタイミング！もう天にも昇る思い。職務を全うした気分だよ」

「意味が分からないんだけど」

Aさんがいつものように話しかけてくれてことに内心浮かれながらも平静を装う。黒尾さんの視線が痛いが、そこは気にしない。

「なんと！東京ネズミーランドのペアチケットが当選したの！しかも二組も」

「そんなことあり得るの？」

「このチケットが証明してる！」

胸を張り、持っていた紙を見せてくれた。なるほど、さっき振っていた紙はチケットだったのかと納得し、顔を上げる。

「誰と行くの？彼氏居ないのに」

「居ないから、赤葦くんを誘う」

「え…」

二ーっと笑って差し出されるチケット。

ヤバイ、頭が真っ白で何も考えられない。

天にも昇る思いをまさに俺は今、体験している。

「ペアチケット二組だから、赤葦くんは木兎さん以外の男の子を一人誘って。私も女子を誘うから」

俺の答えも聞かず、さも当然のように去って行く彼女。この状況が飲み込めず呆然としていると、黒尾さんが言った。

「日曜空いてるぞ」

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