彼女には彼がいる【赤葦京治】 (ページ3)

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合コン当日。

この日は厄日と言っても良いだろう。

バレーシューズの靴紐が切れ、盛大に転んだ。しかも好きな人の前で。大丈夫？と声はかけてくれたけど、盛大に、それはもう漫画みたいに不細工な転び方をして、Aさんは必死に笑いを堪えていた。

講義に行く時も、少し肌寒いからと羽織ったカーディガンの裏表が反対だった。それを米沢に指摘され、隣にはAさんがいた。

「今日の赤葦くん、可笑しい。合コンで浮かれてるの？」

と半分冗談、半分本気で聞かれた。

答えられず、フリーズしていると

「図星だ」

と米沢に鼻で笑われる始末。

最悪だ。

そして俺はたった今急いでいる。

何故なら、教授に雑用を頼まれ今の今まで、つまり合コン開始の7時まで行っていたからだ。

恐らく、米沢がいることで男勢は一人多い。

行ったところで「何で来た？」という雰囲気になりかねない。

かと言って行かなかったら行かなかったで後悔してしまいそうだった。

(木葉さんのことだから、王様ゲ－ムとか、セクハラすれすれのことしそうだからな)

電車と徒歩でおよそ二〇分の場所に着く。走ったので大分時間は稼げた。ただあまりにも息を切らせて入ると、こいつ必死だなと思われ兼ねないので店の前で息を整える。

それから数分して、さて入ろうと手を伸ばした瞬間、扉が開いた。突然飛び出してきた女性と衝突する。

「ごめんなさいっ」

そう顔を上げたのは、涙で頬を濡らしたAさんだった。

「え、」

「あっ」

俺の顔を一度見てフリーズする彼女だったが、店内から「A！」と米沢の声がして慌てて立ち上がる。

そして鞄を拾い上げると同時に、俺の手も掴んできた。

「助けて」

「え…」

そう俺の手を引っ張ると、ハイヒールも脱いで駅の方向へ走っていく。

風が冷たい。ハイヒールを持って走るAさんの姿を通り過ぎる人が不思議そうに眺める。

頬に雨がポツリと当たった。見上げるも雲一つない良い天気だった。ビーズを散りばめたような星が瞬いている。Aさんを見ると頬をハイヒールを持った手で拭っていた。

「ごめん、何か勢いで連れて来ちゃった」

そう笑う彼女の表情はぎこちなく、頬には涙の跡がついていた。

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