あ、黄金じゃない方のマンネです

WHO 1 ページ30

Side JK


朝。起きるとベッドにはAがいて、少し嬉しいというか、安堵というか。
確か今日は朝からダンスレッスン、そのあとボーカルラインは歌の練習。時刻は午前8時半。練習開始は9時。
Aはまだベッドに長い四肢を埋もれさせている。

起きられたのが奇跡だ。まあアラームはすでに10回以上鳴らしてるんだけど。いつも俺のアラームで起きるAが起きないのは珍しいな。

A、と声をかけようとして、ふ、とあのステージ上の怪物の空想が頭をよぎる。

夢見は悪くなかったはずだけど、うつ伏せにベッドに沈むAを見て不意に、あの恐怖にも似た感覚が蘇った。

昨日のドラマもそうだ。Aは凄まじかった。あの場所で、あの画面の中で、AはA以外の何かだった。でもなんだって言うんだ。役柄？男子高校生？学校一のイケメン？たしかにそうだった。Aはあの画面の中で与えられた役に忠実だった。でも、役を“演じていた”、と言うのは違う気がして。

あの違和感はなんだったんだろう。

ステージの照明の中、不意に感じるあの恐怖と似ている気がする。

近くにいるのに遠い感覚。知らずに踏みしめていた大地が、ある日突然、とてつもなく大きな山の裾野であったと知った時のような、途方もしれない恐怖。


『..................ぐぎ？』

寝起きの舌足らずな声。身長に似合わず高めの声は起きぬけでかすれていて、それがやけにセクシーに聞こえる。

ここにいるのは紛れもなくAなのに。

JK「.............朝だよ。練習9時から」

『んああっ！？今何時！？遅刻じゃね！？』

わかりやすく慌てて寝癖だらけの頭を振るA。寝癖もいっそセットみたいに見えて、どうせそのまま練習に言ったって問題ない。

JK「昨日のドラマさ、」
『！？いまその話する！？ってかお前もまだ起きたてじゃん！？？』


だからそのままいっても大丈夫だって。とは流石になんか癪なので口には出さないけれど。
マッハで着替える、といって一気に全裸になったAの体は、どこをどう見たって綺麗だ。ダイエットも筋トレもしてないくせによく食べる。なのに、太らない。

体質まで恵まれてるらしい。

JK「何考えてたの？ドラマの撮影中」

『え、撮影中？』

歯磨きを始めたAは少し考えて、やがてポツン、と、


『なにも』

と言った。

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