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どれくらい時間が経ったんだろう。
心臓の音が速く聞こえるせいで、正常な時間の流れがよく分からない。
依然、慎太郎くんにはだっこされたままだった。
向こう側の席で、代表の男女が立ち上がって杯を交わすような動きがあって、
初めて慎太郎くんが腕の力を緩めた。
どうすれば良いのか分からなくて、ちょっと体制を戻して、慎太郎くんの方を見る。
『…ごめんね』
「いや俺も…ごめん」
せっかく合った目が不自然に逸らされる。
まだ心臓の音は速いままで、だっこされていた感覚はぼんやりと繊細に覚えていた。
なんで?と聞けば困らせてしまうだろうし、
酔っ払っちゃったよねって言えば簡単に誤魔化せる事は承知している。
…けど笑って誤魔化したくない、なんて傲慢な自分が顔を出す。
一旦呼吸を整えたくて、取り敢えず近くのグラスに口を付ける。
何事もなかったように、喫煙室に向かうつもりだったことを思い出す。
「…樹のとこ行くの?」
『いや、喫煙所行こうと思って…』
「俺も行く」
行こ、って言ってそのままずんずん座敷の入口まで向かう。
刹那に掠めた香りでさっきのことを思い出して、急に恥ずかしくなる。
…いっそ樹がいてくれた方が助かるかもしれない、なんて。
喫煙所の扉を開けば、スマホ片手に樹がしゃがんで煙草を吸っていた。
行くなら教えてよ、って思ったけどさっきのトロンとした目を思い出して首を振る。
「おー、お前らも?」
「さすがに酔っ払ったわ」
「クライナーは時限爆弾だから」
「アホかよ」
笑いながら樹と慎太郎くんが二人並んで吸い出す。
どこにいれば良いか分かんないけど、とりあえず慎太郎くんの横にしゃがんでみれば、
ん、って詰めてくれて優しく微笑まれる。
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作者名:甘さ控えめ太郎 | 作成日時:2023年12月12日 0時