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吐いた煙は宙を彷徨って、そのまま消えた。
急に時間が止まったように感じる。違和感。
『…そんな訳ないじゃん。あんなにいじめられてるのに(笑)』
「あー、そっか」
『…樹からなんか聞いたの？』
「いや、まぁちょっとね」
誤魔化すように煙草をくわえられると、
なんだか言葉を遮られた気分になる。
『…なに、ふたりして悪口言ってるの？』
「いや！違う！俺が、…いや何でもない」
『なに〜？慎太郎くんが悪口言ってたの？』
良くない雰囲気になるのは嫌だから、冗談を言えば空気が流れることは知ってる。
サークルで2年生のときに学んだ。まさか本当に役立つとは思ってなかったけど。
『やめてよ〜、樹の言うこと聞かないで、ろくなことにならない』
「…じゃあ好きなタイプも違うの？」
『ちょっとまって、樹からもう聞いたの？』
「さっきライン来たんだけど」
私いつだったか慎太郎くんの事好きって樹に言ったっけ？
なんでよりにもよって慎太郎くんにばらしてるんだ。
『…気にしないで、本当に。
なんで樹が言ったかは分からないけど、あとで懲らしめる』
「ふっ、こらしめるって」
『だってプライバシーの侵害だよ？』
「Aちゃんっておもしろいよね」
良かった、さっきまでの空気は上手く流せた。
だてに2年生のとき苦労してないな、なんてね。
慎太郎くんがいなかった時間の自分に感謝する。
ちょうどIQOSが振動して、いつのまにか時間が経ってたのを知る。
結局樹は来なかった。
最初からそもそも来る気なんてなかったんだろうな。
タバコを取り出して捨てて、その手でドアを開けようとしたとき、
指輪のしてない、男の子って感じの手に捕まれた。
『…どうしたの？』
「…や、あのさー」
『うん』
「…」
『…なに？』
「……いや、俺もそっちで飲んでいい？」
『へ？あ、いいよ全然、おいでよ』
「…グラス持ってくわ」
そういってぱっと手が離される。
そのままそそくさと喫煙所を出て行って置いてかれた。
頭の処理が追いつかなくて、
ただただ捕まれた腕が熱かった。
身体が急に火照る。
…喫煙所が少し寒くて良かった。
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作者名：甘さ控えめ太郎
| 作成日時：2023年12月12日 0時
