BAR <弌> ページ5
「さて二人共、こんな夜遅くまで御苦労だったね……もう帰っていいよ」
怪しげな笑みを浮かべた鴎外が二人にそう言った
「「失礼しました」」
二人はそう言って執務室を出た
ー翌日ー
深夜十一時、仕事を終えた織田は酒場のドアを潜った
既に太宰がカウンターに座って、酒杯を指で玩んでいた
「やぁ、織田作」
織田は太宰の隣に座った
「何をしていたんだ?」
「思考だよ
哲学的にして形而上の思考さ」
「それは何だ?」
織田の問いに太宰は少し考えた
「世の中の大抵のことは、失敗するより成功するほうが難しい……そうだろう?」
「そうだ」
「じゃあ私は自`殺ではなく、自`殺未遂を志すべきなのだ! 自`殺に成功するのは難しいが、自`殺未遂に失敗するのは比較的容易いはずだ!…そうだろう?」
「確かに」
織田がそう答えると
「矢張そうだね! 我発見せり(ユリイカ)! 早速試そう…マスター、メニューに洗剤ある?」
太宰がそう言い出した
「ありません」
カウンターの奥のバーテンダーが当然の如くそう答えた
「洗剤のソーダ割りは?」
「ありません」
「ないのかぁ」
「なら仕方がないな」
二人の話は太宰の仕事の話に移る
太宰曰く大失敗らしいがそれは、太宰自身が死にそびれたというだけであり、仕事内容は完璧である
それから、太宰の増えた傷の話に移る
聞いた織田は、酸鼻極まる殺し合いの結果だろうのと思っていたが、意外と適当な理由だった
「ではその額の包帯は?」
「『豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ』という自`殺法を試した」
「豆腐で怪我したのか?」
「豆腐を固くするため、独自の製法を編み出したのだよ
塩で水分を抜いたり、重しを載せたり……自前の厨房でね
おかげで釘を打てるほど堅くなったし、組織の誰よりも豆腐の製法に詳しくなった」
「その豆腐はうまいのか?」
「悔しいことに……薄く切って醤油で食べると、ものすごくおいしい」
不本意そうに太宰は言った
「うまいのか………今度食べさせてくれ」
「織田作さん……今のそれ、突っ込む所ですよ」
入り口の方から声がした
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作者名:朱鷺の砂 | 作成日時:2019年3月29日 15時