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灰色地帯 ページ20

ヨコハマ租界に昼夜の区別はない

法の区分の曖昧な此処は、無数の灰色地帯(グレーゾーン)を含む

法規の隙間を狙って、各国から無数の軍閥、財閥、犯罪者たちが吸い寄せられる

Aもまた、その内の一人である

このヨコハマ租界は軍警でも迂闊に手が出せない

実質的な治外法権の『魔都』

その魔都に、ポートマフィアが経営する地下カジノがあった

隅に設えられたバーでは、初老のバーテンダーが黙々とカクテルを作っている

バーに並べられる酒瓶にシャンデリアの明かりが反射する

その中に一つだけ、そこに本来あるべきものではないものがあった

それは、酒瓶と酒瓶の間に隠されるように配置された一台の撮影機(カメラ)

客もバーテンダーも誰一人それに気付いていない

そんな中、異変は唐突に起こった

裏口のドアから、灰色の布を纏った兵士達が音もなく現れ、短機関銃を乱射した

当然客達は大混乱(スタンピード)に陥る

その混乱が兵士達の狙いだった

混乱の最中、カジノの進行係(クルピエ)達が隠し場所から機関拳銃(マシンピストル)を抜いたが、構えるよりも速く兵士達に胸を撃ち抜かれた

たった五人の兵士達は迷いのない動作でカジノのフロアを横切り、奥の支配人に駆け込み、支配人を射殺した後、床のカーペットを剥がした

床には電子式の大型金庫が埋め込まれていた

兵士の一人がメモを取り出し、そこに書かれた番号通りに電子キーを入力した

金庫扉が開く

金庫は空だった

兵士が戸惑いの表情を見せる

ほぼ同時に電子警告音が響いた

扉の防火鎧戸が重い音とともに降りる

数秒後、天井の散水機が作動した

室内に散布されたのは水ではなく白色の液体で、服や床に付着するとほぼ同時に気化して空中に漂った

それを吸い込んだ客や従業員達が激しく咳き込み始めた

兵士達も喉を押さえ、体を丸めて気絶していった

散布されたのは呼吸器系に作用する昏倒性の瓦斯であったため死には至らない

兵士の中で最も現状を理解した一人が、銃で自分の頭を撃った

他の四人はその一人と同じように冷静な判断を出来ず、瓦斯によって気絶した

ひとつ客達と兵士達では異なる点があった

兵士達に、楽に死ぬという贅沢はもはや許されない


それを酒瓶と酒瓶の間に配置された撮影機が兵士達の銃乱射に破壊されることなく撮影を続けていた

撮影機→←師匠と弟子



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作者名:朱鷺の砂 | 作成日時:2019年3月29日 15時

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