友 ページ10
古いジャズが微かに流れていた
地下にある店内に窓はない
柔らかい空気、絞られた照明
からりと心地よい音がして、グラスの中の氷がまわった
蒸留酒の入ったグラスには、白いアリッサムの花が添えられている
其処は、かつて織田作之助という男が何時も座っていた席
置かれた酒は、彼が何時も飲んでいた銘柄の蒸留酒
その隣の席に、太宰が座る
太宰は、自らのグラスを手に取り、かつて隣に座っていた相手に話しかける
「今日は何に乾杯する?」
『安吾が来るまで待たないのか?』
ーーーー友の声が聞こえた気がした
「………」
黙したまま、太宰は遠い日の会話を思い出していた
数年前
同じ場所、同じ席で太宰は織田に笑いかけた
「じゃあ、世間話でもしよう……最近面白い話を聞いたんだ
リンゴ自´殺って知ってるかい?」
「……リンゴ自´殺?」
太宰の言葉に織田は目を瞬かせる
「そう、リンゴ自´殺」
太宰が静かに頷いた
「ああ……シンデレラか」
「シンデレラ……」
予想外の単語に太宰は織田の言葉を繰り返す
「…んー…その回答は流石の私も予測できなかったなぁ……織田作と話していると本当に飽きないよ
釈明しておくと、毒リンゴを食べたのは白雪姫だし、彼女は自´殺じゃない」
「そうか……間違えた」
「否、待てよ……ひょっとしたら白雪姫は自´殺かもしれない……
彼女は毒リンゴと知っていてかじったのかも」
太宰は口元に親指を当て、そう言った
「何故だ?」
「絶望だよ
母親に毒を差し出された絶望
ーーーーー否、もっと得体の知れない、この世界そのものが内包する絶望ーーーーー……」
「………」
「だとしたら、面白いね………
最近、面白い異能者に会ったんだよ」
太宰はうつむき、楽しげに唇を歪める
「そいつは人にリンゴ自´殺をさせる」
異質な笑みで太宰は言う
「そのうちヨコハマでも流行るかもね」
「自´殺がか?」
「ああ…素敵じゃないか」
太宰の笑みは、どこか幼く、無邪気な子供じみていた
そんな太宰を見つめ、諦めたように首を振った織田は
「お前は面白いな、思考がくるくる回る」
そう言った
「織田作ほどじゃない」
太宰は笑みまじりにそう返す
「遅いな、安吾」
織田は、軽い口調で、何時もの日常を繰り返すようにそう言った
ーーーーーそれは、もう戻らない、かつての日常だった
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雪華 - ワンピース×たくっちのまぃの恋愛短編集をリクエスト来ましたよ!頑張って作って下さいね! (2018年10月8日 9時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺の砂 - こんな作品を読んでいただき、ありがとうございます! (2018年10月7日 22時) (レス) id: c2940fbcc7 (このIDを非表示/違反報告)
ユウナ - 初コメです!小説面白かったです!更新頑張って下さい! (2018年10月7日 21時) (レス) id: f267fe3bd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺の砂 | 作成日時:2018年10月7日 18時